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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第26章-5

「ほ〜ぉ、ふざけた面だ」
「な…」
大和は喧嘩を売られて、本能的に身構えた。
「ふざけた面だが、こいつぁ面白れえ。なるほど、イナサが連れ込むわけだな」
「連れ込んでなどいない」
憮然と言い返し、鼬に手渡された魚を持って、イナサは外へ出ていった。珍妙な獣と二人(言葉を解する獣を数える単位を知らない以上、大和はそう数えることにした)で残された大和は、気まずそうに首筋を掻いた。
「オレは鎌鼬の夕雷だ。一族がこの村の世話になってる」
鎌鼬はあくまで、偶然空気中に発生した真空状態が、何かを切ってしまうという現象を指すのであって、鎌を備えた鼬が実際に存在するわけではないのだ、と言う常識は一瞬で覆された。
「オレは大和大和…」
「ダイワヤマト!ハっ、大層な名前だなそりゃ」
夕雷は、牙の並んだ口を大きく開けて笑った。そして、2、3度膝を叩くと、大和にちょこちょこと近寄って鼻をひくつかせた。
「な、何だよ…」
夕雷の鼻梁に皺がよった。
「お前、何を持ってきた?」
「え?」
「尾っぽの毛までちりちりしやがる…」
大和は、手の届く範囲に置いておいた刀を手にとって差し出した。彼は刀を包んでいた風呂敷を丁寧に広げた。
「何処でこいつを手にいれた?」
「あ、えっと…祠から取ってきた」
罰当たりめ、と鋭く大和を一瞥して夕雷は、資格の無いものには錆びた棒にしか見えないそれを捧げ持って検分した。
「強い力を持つ器物ってのはな、吉にも凶にも転ぶんだ」
夕雷の表情は依然険しい。
「何回こいつを握った?」
「いや、一回だけ」
夕雷は大和の答えではない何かに頷いて、また素早く刀を布に包んだ。彼はこの刀を、善くないものとして見ているようだ。しかし、あの日大和の心に聞こえた声は、とても快い喜びの声だったのだが。
「こいつはな、坊主、人間が御神体と呼ぶもんだ」
「じゃあ、あの時…」
夕雷は遮った。
「まぁ聞け。こいつも昔はかなりの業物だったにチゲエねえ…名のある武士が命を預けたほどの刀だ。しかしだ、お世辞にも大事に手入れされてたたぁ言えねえ。神ってのはな、人間から省みられなくなると、腐るんだよ」
「腐る?」
なんつーのかな、と夕雷は腕を組んで思案した。
「堕ちるんだ。あ〜、妖怪(バケモノ)に身を落とす、って言やぁ解るか?」
「じゃ、これも…」
生唾を飲み下して、大和は言った。
「うんにゃ、まだぎりぎり踏み留まってる。だがかなり臭え…こいつは間違いなく人間の血を吸ってるからな、腐っちまった時にどうなるか、考えたくもねえ」
夕雷は大和を見て、もう一度鼻を蠢かせた。「しかも、こいつはお前を主に選んだぜ。もう一度見捨てりゃ、そん時が腐る時よ」
「そんな…どうすりゃ良いんだよ」
退っ引きならない状況に戸惑う大和を、初対面の獣が叱責した。
「情けねえ声を出すな。お前、仮にもイナサが惚れた男だろぉ」
「えっ?イナサが、マジで?」
夕雷は首を捻った。
「信じたくねえがな…好みってのは解らんねえ…」
大和はばたばたと夕雷に詰め寄った。
「ホントかよ」
「オレに聞くな、抜け作。だが難儀するぜ。でけえ戰が始まるときだ、お前にゃあいつと共にゆく根性があんのか?」
どうして自分は、こんなに自然に妖怪と話しが出来るのか、不思議がる暇もなかった。大和は本当にいつの間にか、運命の潮の流れに乗っていたのだ。この国に生まれ育った身体が、流れる血が、近づく戰と、昂る闘志を知っていた。
「当たり前だ。惚れた女に命もかけられねえほど、柔な男じゃないぜ」
夕雷は、大和の表情をじっと見つめ
「へへっ、言うじゃねえか。まんざら名前負けしてるってわけでもねえみたいだな」


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