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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Fanfare 飃の啼く…第25章 -5

「わかったよ…狗にゃ手は出さねえ…」
小さな方が頷いて、他の澱みも後に続く。
「あと…3日だぁ…3日目の夜明け、この街は墓場になる。」

「さて、どちらの墓かな」

飃の言葉に、そいつは肩をすくめて、ひひっ、と笑った。

「イキがってろよ…殺す時の楽しみが増えらあ。おいカメラ、こっち向け」

そして、音もなくカメラマンの目の前に立つと、ぐいっとカメラに顔を近づけた。

「よおく覚えとけ、人間。俺たちに歯向かう奴等を鏖(ミナゴロシ)にしたら、すぐに貴様らも音がやしにしてやんぜ。おれは魂だけ奪って溜め込むような生易しいまねはしねえ…この顔にあったら覚悟しな。万が一にも助からねえ…おれは人間を手足から一本ずつぶった切って殺すのが、一番好きなんだ!!」

あわてて後ずさるカメラマンに、あごを仰け反らせて笑う自分の姿を映させて、澱みは腕を広げた。すると、さっきまで普通の腕だったものが、今度は不気味な翼手に変わっていた。人間たちを圧倒したことに満足したのか、澱みは再び、発作的に笑った。風を巻き上げて飛ぼうとしたそれに、私は呼びかけた。

「名前を教えろ、澱み!」

その足につかまった末弟が私を見下ろして、もったいぶることもなく言った。

「害(いつか)だよ」

女声の澱みは自分で翼手を広げ、流し目で辺りを見回す。

「あたしは冥(むつ)…」

「厭(いとふ)だ!」

黒い目の澱みが楽しそうに言い、向かい側のビルへ滑空していった。既に飛び立っていたひょうきんな奴が、叫び声に近い声で言った。

「俺様の名は、顱(どくろ)だ!覚えとけよ、貴様が最後に聞く名前だ!」



残されたものが呆然と澱みが消えた空を見ている間に、私たちも姿を消した。これから忙しくなるだろう。なすべきことは多く、なされたことは少ない。記者の質問に答えて、澱みに関する知識とか、そういうことを教えてあげたいのは山々だったけれど、そんな時間はなかった。私が伝えるべきことは、一つだ。

私は飃の腕の中から、彼らに呼びかけた。聞こえているといい。伝わってくれるといい、出来るだけ多くの人に。

「あ、待って…!」

女のリポーターが私たちが去っていくのに気付いた。伝えたい事は多すぎる…沢山の疑問と、恐怖と、不安の答えが、私に求められていることを感じながら、その思いが言葉にされる前に私は言った。

「お願い!皆この街から離れて!出来るだけ遠くに!みんなに、そう伝えてください!」

そして生き延びて。それと、出来ることならどうか…どうか祈ってください。一人でも多くの命を救うことができるように。

私は飃の腕に抱かれて、澱みが去った方向とは別の空に跳んだ。

太陽がどこにあるのか、最早それすらわからないほど分厚い雲に覆われた空の下へ。


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