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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Fanfare 飃の啼く…第25章 -2

『せいぜい策を労するがいい 憐れなる国津神共
そして 不様な死に様 もはや一握の希望も残っては居らぬこと 人間共に曝せい!



吾が子供達 

吾が澱みよ

全て穢せ 全て壊せ 全て侵せ 全て毒せ!

全ての生命 全ての秩序を 滅ぼすのだ

この 黷の 名の下に!!』

黷は、広げた手に力をこめた。その合図に応え、ビルの周囲の、アスファルトに固められた地面を突き破って、おびただしい数の根が地上に姿を現した。黒く、太いその根は、ものすごい速度でビルの屋上へと伸びてゆきながら、お互いに絡まりあい、分岐していった。その根は不恰好な網目の向こうにビルの姿を隠した。言葉もなく立ち尽くす人間達の目の前で、背後の海と陸地を隔て、巨大なドームが出来上がった。高層ビルをすっぽりと包み込むその姿は溶けかけた繭の様でもあり、殻の崩れた卵の様でもある。しかしそれは、繭でも、卵でもない。

紛れもない城壁であった。



人間たちは、映像が始まった時から、ただ見ているしか無かった。この世で一番邪悪なものが、日常を、平和を犯してゆく様を。


高らかに響く耳障りな笑い声は、城壁を隔てても、海風が唸っても、耳元にこびりついて離れなかった。まるで壊れた管楽器の奏でるファンファーレのように、それは恐ろしいなにかの始まりを告げていた。

薄明かりを宿していた曇り空が、落ち込むようにぐんと翳り、太陽の気配すら覆い隠した。



レポーターの沈黙は雄弁だった。
「―な…」
「あららぁ!腰抜かしちゃって、コレがホントの腰抜けってかぁ!」

甲高い声が、ビルのほうを向いていた記者達の真後ろから聞こえてきた。皆がいっせいに振り返ると、そこには四つの人影がある。急に暗くなったせいで視界がはっきりしない。しかし、視界などはっきりする必要もなかった。肌に感じることが出来る…あの四つは、人間ではないと。
「ひねりの無い冗談だ…」
その隣にたつ、すらりと長身で細身の影が言う。取材陣は、何も言わずにその陰にカメラを向けた。
「売るせえな、イトフ。面白くしたいならよ、こいつらをぶっころしゃあいいんだよ、なっ?」
ひょうきん男の手には、大きな斧があった。翳りゆく日の光のなかでかろうじてその赤い色と、滴る液体が見える。どさっと言う音がした。その音のしたほうから、戒めを解かれたように次々と悲鳴があがる。山本は、二つの影からやっと目を離して、地面を見た。背中から赤黒い血を流して倒れているのは―なんて事だろう―何度か一緒に食事をした、同じ系列の新聞社の記者だ。
「うわあああ!」

「あはははは!」

逃げ惑う者の悲鳴と、それを待ち構える悪魔の笑い声とが引き起こす混乱の中で、幻聴のように、甲高い声が聞こえた。女のような話し方をしてはるが、女ではないとすぐに分かる。
「むさくるしい男達ばっかりねぇ〜。あたしは、もっと綺麗なのを相手にしたいわぁ!」

一人、また一人、彼らの手にある大きな武器に倒れてゆく…山本はふと、自分が元いた場所から一歩も動いていないことを妙に冷静に自覚した。
残った人間は、4人。山本と、もう一人別の社のカメラマンと、彼女からは背中しか見えない二人の男。


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