mare-5
「いねえのかな…」
「すいませええん！！」
河野がいきなり声を張り上げた。寺の横の墓地で墓の掃除をしていたばあさんが胡散臭げにこっちを見た。
「ばかやめろ！声がでかい」
相方は構わず続けた。おれはあわてて会い方を止めようとしたが、止め方がわからない。あまりに暑いので、脳みそがショートを起こしたのだとは思うが。
「すいませええ―」
「うるっさいわ！！」
住職が―禿てたから間違いなく住職だ―いきなり戸を開けて怒鳴った。相方の“ん”は、賢明にも飲み込まれたようだ。目の前の男は、住職というより雷爺と言った感じで、経を読むよりは近所の子供が飛ばした野球のボールを手に、怯えきった子供が門を叩くのを待ち構えているようなタイプだ。
「誰か死んだのか？」
首を振る。
「墓地を買いたいか？」
これにも。
「まさか、仏を拝みに来たんじゃあるまいな？」
もちろん違う。
「おれたち、ネットで動画を見て。この間事件があった神社に行ったら―」
「あの黒いのの事について知りたい人はこっちに―」
俺たちがここまで言うと、住職は本当にうんざりとしたため息をついて、有無を言わせず俺たちを家に上げた。
「おい！」
そして、家の中にいるらしい誰かに呼びかけた。
「またおいでなすったぞ！」
一人暮らしの爺さんの水準を超えるかなり豪華な家だったが、墓地の広さから見るに、この寺には檀家ってやつが沢山いるのだろう。法事の度にあの強面を拝むのは、俺だったら願い下げだけど、どうやらそうではない人も沢山いるようだ。
「ち、ちょっと…」
何が何だか分からない俺たち二人をよそに、袈裟の衣擦れの音と、木の床を歩くのしのしという音は徐々にペースが上がっていった。
何度話しかけても返事はなく、俺たちは客間と思しき部屋に突っ込まれた。
そこには、ソファの上に女が二人。
「やっとそれらしいのが来たな、おい！」
と言ったのは、癖の無い真っ直ぐな髪の毛を短く切った目つきの悪い女で、第一声から察するに口も悪そうな女だった。俺は銀髪と言うものをはじめて見たが、こんなに自然に、髪を銀色に染めることが出来るのには驚いた。まさか生まれつき、というわけではないだろうが。そしてその隣には、丸っこい顔つきをした同じくらいの年の女が座っている。世の中にはもっと垢抜けた色の呼び方があるのだろうが、俺にしてみれば赤茶の、ふわふわとパーマのかかった髪の毛を長く伸ばした女がいた。