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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-28

「香雲が逃げたぞ!」

という門番の声が聞こえた。呼び捨て…仮にも王の血を引く者の名を呼び捨てるのみに止まらず、彼は“逃げた”といった。思ったとおり、彼女は囚われの身だったのだ。しかしもっと信じられないことに、門番は龍の姿に変化していた。龍は、雲の上で人の姿を捨てることを禁じている。龍の姿になると、体中に力が溢れる。そのため、自分を見失い、コントロールが聞かなくなることが多いからだ。だが、今ものすごいスピードで春雲に迫る門衛は、紛れもなく龍の姿をしており、それは春雲がその力の餌食になろうと構わないということを意味していた。追いついた龍が、それを証明するように尾で彼女を殴った。人形のように、彼女は吹っ飛んで東屋の壁にぶつかった。

「くっ…」

春雲は歯軋りした。自分はまだ、龍への変化が出来ない。彼女を捕まえようとした龍が一端上空に昇って、咆哮を上げる。仲間を呼んでいるのだ。その隙に彼女は小さな身体を建物の死角に隠して、追跡を凌いだ。力が漲るのはいい事だが、そのお陰で注意力は散漫になる。龍は上空で旋回しながら、いつまでも苛立たしげに吼えていた。

龍の咆哮を聞きつけた牢の門番は、牢の入り口の守りを放棄していた。元々が平和ボケした龍だ。吼え声ひとつで野次馬根性が湧き上がる。春雲は戸を開けて、急いで神立の居る牢に向った。



「何の用?」

冷たく言い放つ神立に、普段の春雲なら怒りもしただろう。しかし彼女は厳しい表情を崩し、力なく膝を折って弱弱しい声を出した。

「…頼む…わらわはもう、何を信じてよいのかわからぬ…頼む、本当のことを教えてくれ」

神立は答えなかった。

「澱みとは何じゃ?わらわは、哥の言う事を信じた…たった一人わらわを信じてくれる哥を信じた…けれど…」

神立の姿は、暗がりに沈んで見えない。

「本当に、知りたい?」

再び顔を上げた春雲の目には、目を潤ませる涙を圧倒する強い決意が見えていた。

龍の目だった。

「聞かせてくれ…全てを!わらわは救いたい。龍を救いたいのじゃ!」



神立が全てを話し終わるまで、春雲はじっと聞いていた。異を唱えることも、質問をはさむことすらしなかった。神立は、時に自分の手をきつく握り締め、時に唇を噛んでその情け容赦ない現状を必死に聞いた。ようやく、いま地上でどんな事が起こっているか…その、希望を見出すにはあまりに暗い状況まで話し終えると、どちらも深いため息をつき、そして考え込んだ。春雲は言う言葉が見つからないし、神立は彼女が結論を出すのをせかしたくは無かった。頃、春雲が言った。

「今でも、夢に見ておるのじゃな」

神立は頷いた。ただ、恥ずべきことのような気がしたので、控えめに。彼は、生まれて初めて、自分のしたことを、してきたことを全て人に話した。軽蔑されない自信があったからではない。軽蔑して欲しいと望んだわけでもない。しかし、春雲が立ち向かおうと決心した相手の全てを伝えようと言う誠意によるものだった。かつてはそこに属していた者として、全身全霊で全てを語った。

「辛いじゃろうに」

しかし、軽蔑どころか、同情されてしまった。神立は、他の者に哀れまれていると感じるときの常で、こう言った。


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