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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stormcloud-1

「神立…なるほど、良い名だ。」
飃さんは、名前以外には何も聞かずに言った。そして、大きな手を頭にぽん、と置いて
「好きなだけこの街に居れば良い。己やさくら、颪も居る。」
横に居たカジマヤは
「でも兄ちゃんの家には夜の9時以降に行っても入れて貰えな…ってぇ!」
…叩かれてたけれど。

思い出して、ふっと笑みがこぼれる。カジマヤは、そもそも兄弟と言うものの概念さえ無かった自分の兄に、進んでなってくれた。
「良いか?飃兄ちゃんの一の子分は俺だからな、で、颪が二番で、お前はその次!」
「なんでおれが二番なんだよカジ…」
青嵐だって、怒った振りをしながら笑ってたっけ。仲間内で気軽に過ごしている、そういう時にみんなのそばに居られることが、最近とても嬉しい。
そして…
「ほらこれ!」
そして、さくらさん。
「いつまでたっても冷めないの!すごいでしょ?お味噌汁入れといたからね、それとおにぎり…はい!」
夜の見回りに出る度に、あたたかいお弁当を持って来てくれる。飃さんとさくらさんの家に迎えに行くと、必ず彼女は、夜の見回りをする僕たち全員分のお弁当をリュックに詰めて家を出る。そして、明け方空っぽのお弁当箱を返すと、本当に嬉しそうに笑う。
「なんで俺の弁当箱は保温式じゃないんだよ〜?」

「順番こなの!次はカジマヤに回すからすねない!」
「保温式にしたところで、お前は冷める前に全て食ってしまうだろうが。」
飃さんが呆れたように言って…また僕は、笑うのが好きになる。




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龍の巣。

これほど“巣”という単語が似合わない場所も無いと、神立は思った。

そこは、日本と中国大陸の境にある雲の上で―彼が青嵐から直接言われた言葉を借りれば―神族の住処、一等地である。雲といっても、レーダーにも映らず、衛星に捉えられることもない。龍の巣は雲として存在する雲の上にあるわけではなく、雲という名のちょっとした異次元空間とでも呼ぶべき代物だった。現世と龍の巣を行き来するのは大変なことで、狗族でも、どんな神族でもそう何度も足を運んだりはしない。なにしろ、沖縄と東京間をほんの数時間―しかも交通手段を使わず―で行き来できる狗族の足でも2日かかる。これは、入り組んだ迷路のような空間を、わかるものにしかわからない手がかりを頼りに進むためである。

龍の巣に赴いて、戦への援助を申し出るという仕事をしないかと言われた時、神立は二つ返事でOKすると言うわけには行かなかった。ほとんどの妖怪や神族を眼にしてきたが、龍族はまさに、雲の上の存在といったところだ。ちょっと会ってこない?と言われて、気軽に行きます、とは言えないのだ。なにしろ龍は世界的に有名な神族だし、中国ではついこの間まで、天子である皇帝の御所を飾り、護る大儀を与(あずか)っていたのだ。その権威たるや、日本では一番の勢力を誇る狗族など、子供が組んだ郎党に等しい。

しかし実際、神立に与えられた仕事は、中国地方を治める狗族の長、颶の弟である颱に付き添う、護衛だった。龍と話をする必要も、その逆鱗に触れて頭から丸呑みにされる必要も無いと聞いて、神立はおののきながらもその頼みを引き受けることにしたのだった。


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