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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第24章-18

「立ち退きください!ここは青嵐も立ち入りを許されぬ神聖な部屋ですぞ!」

「神聖?」

七星の柄をギュッと握った私の手は、震えも力みもしなかった。

「澱みを切り刻んで増やし、物のように散々いたぶって殺すのが、神聖なことだとだって!?」

「それに、その背中のもの…まさか、逃がしたのですか!一体どういうつもりで―!?」

どうしたらいいのかわからないという風に、様々な狗族が声をかけてくる。見たところ、戦士の体格ではない。さっきの澱みが言ったように、この建物の中には澱みを研究する区画があるのだ。ここがその本丸で、ここに居るものはみな、研究者だ。私は後先考えずに声を荒げた。

「近寄るな!!」

無闇に手出しはできないだろう。私が飃の妻だということを知っているから。一人ひとり、増えてゆく狗族に七星を向ける。

「この騒ぎはどうしたことだ!実験体共が騒いでいる、直ちに持ち場に戻れ!」

狗族の群れの後ろで、部下を叱咤する声が聞こえた。とたんに群がった者たちが道をあける。

「八条―」

眠たげな目は、私を見つけた驚きに少し開いた後で、また瞼を緩めた。

「―さくら殿。こんなところでお会いするのは本意ではありませんが…お初にお目にかかる。私はここでの澱みの研究における全権を、青嵐から託されている…秋声(しゅうせい)と申すもの。賓客のお一人である貴方様が、何故斯様なところに、よりによって澱みを背負って立っておられるのか?」

私はその質問には答えなかった。

「こんな…酷いこと…!何をしてるのか、わかってるの!?」

彼は銀狐だった。でもその頭髪は銀というより白に近い。下がった口角と、その眼差しを見るに、この男は生涯で一度も笑うことなど無いのではないかと思わせられる。

「その言葉、そっくり貴方にお返ししよう。ご自分が何をしておられるか、わかっておいでなのか」

「わかってる!こんなことは、許されていいはずが無いでしょ!」

私の予想に反して、目の前の狗族は笑うことが出来た。しかし歪で、とても笑顔と認めたくなるようなものではない。

「我々は、貴方が言葉も話せぬ赤子だった頃の、更に昔からこれを続けている。貴方に許してもらう必要など、ない」

秋声は音もなく私に詰め寄った。

「貴方はあの山猿からここの記憶と、あの澱みの願いを手渡されたのだろう。呆れたものだ…八条さくらは噂に違わず、困窮したものを見捨てては置けない性格というわけか…しかし、澱みにまで情をかけるというのは、いささか行き過ぎの感がありますな」

その言葉に数人が笑った。

「お前たちのしていることは、澱みと同じだ!」

「なら貴方のしていることはなんなのだ?闇雲に暗部を暴いて、これは“人道”に悖(もと)る行為であるとふれまわるおつもりか?澱みに親を殺された狗族が、妖怪が、貴方の声に賛同すると思うか?」


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