投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 491 飃(つむじ)の啼く…… 493 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

飃の啼く…第24章-14

「お礼がしたいのだけれど、その時間もないかしら」と。

「あなたは私に、名前を授けてくださいました」

うっすらと汗の滲む顔を時々痛みにゆがめて、彼女はそれでも微笑んでくれました。

「それじゃあ足りないわ…この子を助けてくれたんだもの…」

「では、いずれその子に借りを返していただきましょう。それまで生きながらえることができたのなら」

というと、何も言わずにお笑いになられました。

「約束よ」

私はそれきり、別れの言葉もなしに、彼女の主治医の意識から消え、二度と彼女にまみえることはありませんでした。



+++++++++++++



澱みは、私の頬を伝うものを不思議そうに眺めた。

「貴方の母上は、やはりお亡くなりになられたのですね」

私はうなずいた。

「残念です…」

初めて、彼女が私に見せた表情らしい表情は、おそらく恥ずかしさだったのではないだろうか。

「人間が羨ましい。こういうとき、私にも流す涙があれば良いと思います」

暗闇に慣れてきた目が、牢の壁に綺麗に整頓しておいてあるおびただしい数の本を捉えた。

「それで、どうして青嵐会の本部に、貴方がいるの」

それは、と、彼女は再び顔を上げた。

「あなたに逢うためには、他の狗族に殺されてはならないと思ったからです。私は、彼女の病室に看護婦が来る前にその場を立ち去り、ここにやってきました。私は、私を滅ぼさずに匿ってもらうかわりに、あるものを差し出しました」

記憶のフラッシュバックが炸裂した。よごれた桶、腕、そして…

あの目。私の心に焼きついたあの眼差しが、私を見つめている。

「ある、もの…?」

「私はこうして労に篭り外界との接触を断ち、知識を得、青嵐会の狗族が行う、澱みの研究に貢献できるように沢山の本を読みました。そして、貴方の訪れを待った」

確かに、彼女の牢は広く、その半分以上が本で埋まっていた。私が生きてきた間、彼女はずっと、ここで私を待っていたのか?期待に満ちた目は、紛れもなく私を写している。何を求められるのか想像がつかない。私はゆっくりと膝を折って、彼女と目線をあわせた。

「あんたは…私に何をしろって言うの。私は、あんたの仲間…澱みをたくさん倒してきた…数え切れないくらい、たくさん…そんな私に、あんたは何を望んでるの?感謝すればいいの?謝ればいいの!?」

少しだけ、彼女は目を細めた。笑顔と呼べなくも無い表情だった。


飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 491 飃(つむじ)の啼く…… 493 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前