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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stargazers-18

“アリスはまた不思議の国に居る”。これは、彼女の母が好んで言う言葉だった。小さい時から本を読むのが好きなアリスは、食事中であろうと、授業中であろうと、とにかく時を選ばず空想にふける癖がある。この癖はどちらかといえば赤毛のアンのほうに似てると彼女自身は思ったけれど、何しろ名前が“アリシア”なのだからそのほうがしっくりくる。とにかくそうしてぼんやりしていると、決まってそういわれた。とは言え彼女の外見は挿絵でみる不思議な国のアリスの姿とは対照的と言ってもいい。しかし物語中、代用海亀の台詞にあった洒落のように、歴史(Histry)よりも謎(Mistery)に興味があったし、地理(Geography)よりも海洋学(Seaography)を勉強したいと思う彼女は、好奇心が強いという事においては物語の主人公にも引けをとらなかった。そんな彼女を、母は優しく微笑みながら“私の可愛いアリス”と呼んだものだ。12歳のあの日を迎えるまでは。

母が亡くなったのは病気のせいだった。小さすぎて、その当時のことは覚えてはいない。変わりに、めまぐるしく変わった彼女の生活が、古い記憶を押し出してしまった。

父が米軍だということは知っていた。両親が話し合いの末、基地に住まわせるよりも日本人としてフェンスの外で生活を送れるようにしたことも。そのせいで父親とはほとんど顔を合わさなかった。母が亡くなると、アリスは当然のように基地内の父の住居に移り住むことになった。父親のことを愛しているかと聞かれたら…素直に首を縦にふれるかはわからない。でも、首を横に振るほどでもないことはわかっていた。

「間に合いますように…」

アリスは心の中で祈った。そして、もっと早く走った。



++++++++++++



「アリス!」

追いついたカジマヤは息も切らしていなかった。アリスはまだ亡霊にも劣らぬ真っ青な顔をして、カジマヤを見通してもっと遠くを見ているかのようなうつろな目を向けた。

「あの写真…」

テレビに映っていた、大写しの写真のことだ。アリスは思った。基地内の学校ではじめて出来た友達と一緒に写っている…

「やっぱり、君はあの男の娘なんだ…。」

しかし、カジマヤが言っていたのは別の写真のことだった。無味乾燥な、四角い、彼女の父親の写真。彼が追撃した飛行機に乗っていた、あの男。そして、ウリジンベにあの灼熱の雨を降らせた男の。だが、アリスはその真意を読み取ることが出来る状態ではなかった。

「パパは、危篤だって言われて…私は家を飛び出して…」

辿るようにゆっくりと、恐れを抱いたか細い声で彼女は口にした。

「パパは植物状態だって…もう起き上がることも、目覚めることもないかもしれないって言われて、私…」

周りの人ごみは、水槽の向こう側の世界のように二人とは隔離されていた。にぎやかな喧騒も、暑い日ざしも、二人の周りの空気には干渉することができないようだった。


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