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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Stargazers-17

初めて触れた唇は、甘酸っぱくもないしレモンの味もしなかった。ただ、すこしだけ、海の香りがしたのと、とても柔らかいと言うことだけはしっかりと心に残った。

離れた顔が、気恥ずかしげに俯く。ちらりと相手をうかがう彼女の目が、潤んでいるような気がした。彼女は低い声で短く笑って

「どうかしてる」

と呟いた。

「え?」

「だって、私は記憶喪失で、自分の名前もわからないのに、医者に行って平穏な日常に戻るよりも、ここで星を見て…多神教徒の信仰対象とキスしっちゃったんだもの」

カジマヤは傷ついたように鼻を鳴らした。

「…不満なのかよ?」

「問題はね、それが物凄く素敵で…記憶なんか戻らなくてもいいかもって思い始めてるところにあるの」

悩める乙女の口調を最大限わざとらしく作り上げて、アリスは大きくため息をついた。その様子に、カジマヤが笑う。そして二人はうっとりと、まるで天蓋に描かれたみたいに空一杯に広がる星を見た。

「航海をする時に、星を手がかりにして海を渡るって聞いたことがあるけど…」

アリスはまどろみながら呟いた。

「あたしはどの星を頼りに、ここまで流れ着いたのかしら」



翌日、二人はまた街に向かった。こぢんまりとした飯屋で、昼食をとることにしたのだ。カジマヤは麺を上手にすすれないアリスをからかい、アリスは大げさな音を立てて面をすするカジマヤをからかった。

『…沖縄市瑞慶覧にある、キャンプ瑞慶覧に住むアリシア・リデルさん15歳の消息は依然として明らかになっておらず…』

言葉を交わす必要はなかった。お互いがお互いの表情をかするように見交わした後、二人は店の天井近くに取り付けてある小さな箱型テレビを食い入るように見つめた。

『米軍当局によりますと、アリシアさんの父スティーブン・リデル氏が数日前海上での訓練中、何者かによる襲撃を受けたことと何らかの関連があるものとして、テロの可能性も視野に入れた捜査を…』

アリスは黙って立ち上がり、亡霊のような表情で店から出た。呼び止めるカジマヤの声は、海のそこから聞こえてくるみたいに遠く、ほとんど気付くことはなかった。



++++++++++++++



「リデルさん?聞いてます、リデルさん?」

聞いてはいたが、受話器は耳から離れていた。体中の血が砂に吸い込まれてしまうようだ。その砂が、血を吸い込んで堅く固まってしまうように、体が動かなくなっていることもはっきり認識していた。

「今すぐ病院にお越しください…」

言われるまでもない。

―わたしのパパが、死にかけている。

電気も消さず、とりあえず玄関の鍵だけは閉めて、彼女は暮れ始めた空の下に飛び出した。



外に出た途端、無防備なノースリーブが肌に張り付くほど汗ばむ。


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