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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第23章-11

「そう。」

板の間の、蝋燭の光の届かない暗がりに居た茜が言った。

「あれには“澱み”という名前があるのよ。包み隠さず言うけれど、あの化け物は日本中にうじゃうじゃ居て、今は神々を滅ぼし、妖怪を殲滅し、人間の魂を手に入れるためにああやって襲ってくる。」

ざわめきが大きくなった。小娘の戯言と一蹴するには、茜の話し方には説得力がありすぎた。先刻見た光景と、静かで確かな茜の言葉。恐怖のボルテージが上がっていくのが覚義には見えた。

「今回だけじゃないわ。あたしは他の場所でも似たようなことが起きてるのを知ってるもの。最近の神社の襲撃事件も、この間のスーパーの事件も、ここのところ行方不明者が急激に増えているのも…」

ざわめきの中に、啜り泣きが混じった。母親を見失い、怯えた子供が次々に泣き始めた。それを覆うように広がる混乱が、覚義には墨汁が水を黒く染めてゆくのを見るようにはっきりと見えた。

「もういい!!」

覚義が立っている茜のところまで突っ切り、彼女の胸倉をつかんだ。眉一つ動かさない茜が、真っ直ぐにそれを見返す。

「何のつもりだ?そうやって恐怖心をあおってどうなる?私へのあてつけか?」

茜が、覚義の肩を押して一歩後ろへ下がった。

「それこそ、何の意味があるの?人間の恐怖をあおっても、やつらを喜ばせるだけ…私がしているのは、そんな安っぽいことじゃない!」

静まり返った部屋に、残響が残った。

「何が起こっているか、知りもしないで死ぬのが幸せ?足掻きに過ぎなくても、結果が目に見えてても、出来ることをするのよ!そうじゃなきゃ、何のために生きてるの?あんたは凄い妖怪なんでしょ!だからあたしたちが来たんだもの!何もしないで腐ってくのが、あんたの生き方なの!?」

茜は、立ち尽くす覚義の手をとって、もう片方の手で握った。腕相撲のときにするような、挑戦的な握り方で。

「見せてあげる。あたしやさくらや、皆がしてきたことは、つまんないあんたの終末論に負けやしないんだから!」

茜が目を閉じ、覚義もそうした。水につかるような感覚が彼の体を包み、記憶への潜行が始まった。


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