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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第23章-1

雨の日の暗さの中で見る街は全然違う。それも、季節によってその光景はまた違ってくる。

冬には、高くそびえるビル群ですら冷たい長雨に振られて肩を落とすように見える。空から地面まで、落ち込んだような灰色に覆われて、日本全国憂鬱警報が発令されたみたいに。でも、梅雨が到来した今、こんなふうに篠突くような雨などが降ると、爽快といってもいい気分になる。実演販売の洗剤が、目の前で汚れを落とすのを見るような…

「うーん、なんだかなぁ…。」

そんな事を言いながら、たたくような雨になす術も無く降られている私がいた。傘は持っていない。いつも「少しくらいの雨だったら傘を持たないほうがかえって楽」とか言って、怪しい空模様の朝にも傘を持たない。私はそれを「潔い決断」と言い、茜は「横着なだけだ」と言い、飃は「いっそ大雨が降ればいい」と言う。間違いなく、濡れた服を脱がせることを考えていて、どうやら今日は飃の当たり日らしい。多分、占いのランキングでおうし座は最下位なんだろう。

傘代わりのカバンは、水を吸って重くなっている。中に入っている教科書が、今よりもっとふにゃふにゃになったらそろそろシャーペンの芯を受け付けなくなりそうだ。

「……ぁ。」

そういえば…飃とはじめてあった日も、こんな風に雨が振っていたっけ…もう一年…過ぎちゃうのか…

私は、まっすぐ家へ向かっていた足を転じて、近くのスーパーへ向かった。今日は、なんだか久しぶりにちゃんとした料理を作りたい気分になったのだ。最近は戦いに明け暮れるあまり、おにぎりやら生野菜のサラダやら肉を焼いただけのものやらよく言えば素材の味を生かす料理。悪く言えば、そしてありのままに言えば手抜きだ。でも、今日は…そう、なにか飃が喜びそうな…



私が頭から靴の中までびしょ濡れでも、気にする人はあまり居ないみたいだった。晴れていたのに急に降る雨のことを“気違い雨”と言うそうだけど、今日は皆その気違いにひどい目に合わされた人たちばかりだ。スーパーの床には、ぽたぽたと雨水の足跡が続いている。

「ミートローフって作ったことあっったっけ…」

何にしようか迷いながら売り場をうろついていたその時…

私の背筋を凍らせたのは、悲鳴のせいか、それとも…

「澱みの…気配…?」

澱みの気配と悲鳴とが一緒に聞こえると言う状況はよろしくない。全くもってよろしくない。いまや、澱みが狙うのが狗族だけではないことは、恐怖と共に実感せざるを得ない事実である。

とにかく、中に入ってる卵のパックにはお構い無しにバスケットを放り投げ、悲鳴の聞こえた出口付近へ向かう。途中で、その方向から逃げてきた人にぶつかる…そう、恐怖に歪むどの顔も…澱みを見たことを意味している。

大きさは?強さは?私だけで太刀打ちできる?

ええい。細かいことを考えるな、さくら!

自分で自分に一喝して、不恰好な袋に入れて持ち歩いている七星を抜いた。

首筋の不快感がどんどん増す。体中の毛が逆立ってくるのを感じて、私は敵に近づいていることを知った。野菜売り場の一本手前の通路、酒の並んだ棚だ。私がきゅっと言う音をさせて革靴を踏みしめると、目に入った影は二つ…。


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