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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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The kiss and the light-21

父は、その岸壁で死んだ。弱り果てた身体でようやくそこまでたどり着いて、夜のうちに死んだ。俺は、ついてこないようにきつく言い渡されていたから、自分の部屋の窓から、彼の体がひとりでに燃え上がるのを観ていた。キリスト教徒ではないから、蘇りも、終末のラッパも信じては居なかった。彼はとっくの昔に見えない炎で焼き滅ぼされていた自らの身体を、ようやく灰へと還してやっただけなのだ。彼の体は、真っ黒な夜に抗うように燃え上がり、やがて夜を受け入れるように黒く変色していった。吹きつける風が炭となった身体にまだ宿る炎を赤々と燃え上がらせた。魅せられたように見つめていた俺は、そんな彼を羨ましいと思い、また哀れにも感じた。ほんの少し、哀れみのほうが勝っていたかもしれない。だから、彼の体が崩れるのを見ると、俺は迷わず屋敷に火をつけた。父の後を追って焼け落ちる屋敷は、悲鳴のように、怒号のように叫びながら燃えた。炎と煙に巻かれる屋敷がもし、言葉を持っていたなら「裏切り者」と叫んで崩れただろう。

俺は小さなスーツケースを持って、復讐心も、妄執も恐怖も灰の中にうずめてその場所を立ち去った。父は俺に、大切な書物と共にこの場所に永遠に留まり、憎き仇に止めを刺すことを望んでいた。しかし、その当時はまだ、毎晩のように悪夢にうなされることもなかったし、自分の中の本にほとんど余白が残っていないことに気付いてもいなかった。だから俺は、親父が弱り果てていくのを淡々と眺めながら、都会での自由な生活という夢を育んでいったのだ。

きつく縛って糊付けしておいた本が開き始めたのは、イギリスに渡って、初めて迎えた満月の夜だった。

憎しみの記憶と、対比する幸せの記憶。

普通の生活に現を抜かす俺に、親父は灰の中から蘇って俺をしかりつけに来たというわけだ。



これ見よがしに教会へ通い始めたりもしたが、左の頬を打たれたら右の頬も差し出す自身が無かったので、足は遠のいた。確かに、上着を盗んだ相手に下着を差し出すというやり方は効くかもしれない。盗んだほうが逆にひく。とにかく…普通の生活は、俺には合わなかった。狼に変化し、誰かへの憎しみを飼いならし、それを力へと転換する生活のほうが俺には容易かった。

だから、誰かを救いたいと思ったあの時は…自分に驚いた。敵を殺すことで誰かを救うのではなく、自分が守ってやることで誰かを救うことが出来るのかもしれないと思ったあの時には。



菊池美桜は、使命を共に全うする伴侶を見つけることが出来ず、追い詰められた母親の賭けによって生まれた娘だった。生まれることで、何も知らない父親を殺すことになるという自分の存在を、世間知らずで、ぼんやりした、あの少女はどう感じていたのか…本人よりも俺のほうが少しだけわかってやれていたと思う。



俺は彼女が住んでいた家から、狗族を退ける呪と、悪しきもの全てから守る呪を幾重にも重ねたアパートの一室に引越しをさせた。そして彼女の身体に一つ、小さな魔除けのシンボルを彫り、彼女を自由にした。狗族からの干渉も受ける必要は無い。定められた結婚などしなくたっていいんだ。まして復讐の化身となって、戦いに明け暮れる日々など、送らせてなるものか。青嵐会には嘘の報告をし続け、俺は遠くから彼女を見守っていた。

彼女は前よりよく笑うようになり、たまに訪ねていくとうれしそうに自由な生活のことを話した。


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