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魔法のトンネル
【ショートショート その他小説】

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魔法のトンネル-1

僕は河原でチクワを覗いていた。
いや...正確にはチクワの穴を通して、幼き日の自分の姿と亡き母の姿を見ていた。

「ねぇママ見て〜!!アゲハチョウだ!!アゲハアゲハ!!大きくて綺麗だね〜!!」

そう言いながら走り回る小さな僕を微笑みながら見ている母
もうこの頃には本当は微笑む事すら大変だった筈なのに...

母の死因は癌だった。

家業の魚屋は周囲がうらやむ繁盛ぶりで、父はもちろん母も多少の病気は無視して
笑顔で働き続けていた。
そんな仕事の合間に作ってくれた手作りチクワが僕のお気に入りのオヤツだった。

しかしそんなある日、突然母が倒れた。
その時はもうすでに手遅れな状態にまで癌は進行していた...
我武者羅に働いていたために発見が遅れたのだ。

母が倒れた1週間後、母は退院した。いや、父が母を病院から連れ出した。

そして
「よし!!しばらく店休んで家族旅行をしよう!!」
そう言ってこの場所にやってきた。


その思い出の場所にいる
あれからもう25年...父も5年前に他界した。
「あの時俺がもっとあいつの事を見ていれば...」そう言い残して。


僕にはもう子供がいる。
さっきまで妻のふとももの上でスヤスヤ眠っていたのに、今はもう元気に走り回っている。

「ねぇママ見て〜!!アゲハチョウだ!!アゲハアゲハ!!大きくて綺麗だね〜!!」

僕はこの子に同じ思いは絶対にさせない。妻の手作りのチクワを覗きながらそう誓った。



END


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