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花火
【少年/少女 恋愛小説】

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花火-2

「一人ぼっちの寂しさを、感じたから」
私は涙を拭って言った。少年は黙って私の隣に座る。
こんなつもりじゃなかった。寂しさを思い出すつもりじゃなかった。浴衣の花の模様が、涙に滲んで揺れる。
「僕も一人ぼっちなんだ」 少年は空を見上げならが呟いた。
「だからここに来たんだ。誰かに巡り逢えるような気がして」
私は隣にいる少年を見つめた。彼の言った言葉は私の胸にすっぽりと収まった。
「誰かを、探してるの?」 少年は首を横に振る。
「いや、誰も探していない。けど」
「けど?」
「誰かに気付いて欲しかったのかも。僕の存在を」
そう言うと少年は上を向いたまま頬を濡らした。
「どうして泣くの?」
私は少年の顔を覗き込む。
「さあ。一人ぼっちの寂しさを感じたからかなあ」
彼は私と一緒なのだ。夏の陽気に誘われて、浮かんでは消える悲しい存在。何故だろう、私達だけこんなに冷たい。外はじりじりと暑くて蝉が鳴いているのに。
少年を見つめる私の瞳から涙が零れた。


「泣かないで」
少年は私の肩を抱き寄せる。心地いい人の感触に私は溺れそうになる。
「もう泣かないで。大丈夫だよ」
私は少年の肩に顔を埋めておもいっきり泣きじゃくる。
「傍にいるよ。大丈夫だよ」
打ち上がって、咲いては消えていく。空に浮かんだ模様が私の心にも浮かんでいた。こんな穏やかで楽しい気持ちになれたのは何年ぶりだろう。こんなに素直に泣けたのはお母さんがいなくなって以来だ。
「僕は祭の日にここで捨てられたんだ」
少年は遠くを見ながら呟いた。
「ここで?」
「うん。それから毎年祭の日になるとここへきてた。誰かが僕を見つけてくれるかもしれないって。でも、いつも笑い声が僕の横を通り過ぎるだけだった」
少年が私の手をぎゅっと握る。
「そんな事ない」
私はその手を握り返す。
「そんな事ないよ。だって私はあなたに気付いたじゃない。あなたは私を見つけてくれたじゃない」
少年は目を丸くする。
「きっとこれは夏がくれた贈り物なんだよ。私達、もう一人ぼっちじゃないよ」
私は立ち上がり少年の手を引く。浴衣に付いた草が風に押されて飛んでいく。



「じゃあ僕達、二人ぼっちだね」
少年は立ち上がり笑顔を見せる。
「ねえ、行こうよ。私スマートボールがやりたい!」 私は少年の腕を引っ張り駆け出す。少年の笑い声が後ろからついてくる。
寂しいよ、悲しいよ、私達一人ぼっち。でもね、こうして手を繋いでみて。あなたの熱が私に伝わってくる。暖かくて、心地よくて、一人じゃないと実感できる。
怖いけど、苦しいけど、でもこの心に咲いた花火を信じて、傍にいよう。
空き地を出る途中で男の人とすれ違った。空を見上げて泣いているようだった。

「ねえ、名前なんていうの?」
私は道の真ん中で振り返った。
「あ、僕は亮平だよ」
「亮平かあ。私は由佳里だからね」
人混みの中をはぐれないようにもう一度手を取り合う。
「もう、さ迷わなくていいんだよ。私が亮平を見つけるからね」
亮平は白い歯を見せて頷いた。
「由佳里の傍にずっといるよ」
花火がひとつ、またひとつと打ち上がる。見物客の歓声。子供が水風船を持って走り回っている。
「亮平、私こんなに綺麗なお花初めて見たよ」
闇に燃える色とりどりの花模様が、私達の存在を見つめてくれているようだった。


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