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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み5 〜MEMORIAL BIRTHDAY〜-9

 その日、美弥は朝からそわそわしていた。
 その日とはずばり、九月二十八日。
 美弥の誕生日である。
 前々から探りは入れられていたものの、最近は何の音沙汰もなくなっていたので多少不安だった。
 そわそわしつつ放課後を迎え、美弥の不安は最高潮に達する。
「ねぇ……」
 堪り兼ねた美弥は、隣を歩く龍之介に声をかけた。
「ん?」
 今はいつも通りに、色々なお喋りをしながらの下校中である。
「今日はさ、その、あの、え〜……」
 自分から言い出すのは何だか浅ましい気がして、美弥は口を濁した。

 そんな美弥を見て、龍之介はくすくす笑う。
「ちゃんと覚えてますって。十七歳の誕生日、おめでとう」
 言って龍之介は、美弥の手を握った。
「お……覚えてたのぉ」
 美弥の顔が、くしゃっと歪む。
「何にも言わないから、忘れてるのかと思ったのにぃ……!」
「僕がそんなヘマ、する訳ないでしょ?」
「じゃあ何で黙ってたのよぉ」
 美弥が頬を膨らませると、龍之介は笑みを引っ込めた。
「誕生日プレゼントをどうするか、今の今まで迷ってたんだよ」
「そんな事で!?」
「そんな事って……」
 龍之介にとっては、かなり重要な事である。
 何しろプレゼントなどし慣れないし、美弥も全く欲しがらないから、一体どんなモノを喜ぶのか正直言って分からない。
「何にも言わないから、不安だったのにぃ……」
 拗ねる美弥の頭を、龍之介は撫で回した。
「でもようやく決まった。今から買うから、行こう」
「え……どこに?」
 不思議そうな顔をする美弥の手を引き、龍之介は促す。
「繁華街の方」


 龍之介が美弥を連れてやって来たのは、ただの高校生には少々敷居の高い宝石店だった。
「ち、ちょっと!こんな高いとこ……!」
「大丈夫だって」
 龍之介は慌てる美弥を引き連れ、店に入る。
「いらっしゃいませ」
 ピシッとスーツを着こなした店員が、二人を迎え入れた。
「ちょっとぉ……!」
「受け取って欲しいんだ」
 龍之介の真摯な口調に飲まれ、美弥は口をつぐむ。
「これを」
 ガラスケースの中に陳列された様々なアクセサリーの中から、龍之介はそれを指差した。
 プラチナの台に、小粒のサファイアとダイヤモンドを寄り添うようにあしらったリング。
「サファイアは美弥ので、ダイヤは僕の誕生石。受け取って欲しい」
「龍之介……」
 美弥の目が潤む。
「ありがと……嬉し……」
 リングの上で結ばれた二つの宝石のように、この人と寄り添っていきたい。
 美弥は本当に、そう思った。
「サイズはぴったりのはずだけど……嵌めてみていいですか?」
 龍之介の声に店員は頷き、ガラスケースの中から取り出したそのリングを差し出す。
「あ、と。支払いは……」
 龍之介は、竜彦のクレジットカードを出した。
 無利子無担保ある時払いの催促なしという、懇切丁寧な兄ローンである。
 返済にはバイトの給料をあて、すぐに完済する予定だ。
 いささかロマンティックさに欠ける話だが、収入の少ない高校生という身分では致し方ない。
「できる事なら……ここに嵌めて欲しい」
 龍之介は、美弥の右手を取る。
 そして、リングを薬指へ……。
「あ……」
 リングはまるで、あつらえたようにぴったりだった。
「いつか左の薬指にもリングを嵌める事ができるように、頑張ります」
「……はい」
 美弥は涙混じりに頷く。
「嬉しい……ありがとう……」


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