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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み5 〜MEMORIAL BIRTHDAY〜-5

「……あ!!」
 ようやく思い出したのか、美弥は一声叫んだ。
「紘ちゃん!?」
「し……知り合いなのか、美弥?」
 自分の事を浮気呼ばわりされた龍之介はひどく動揺しつつも、何とかそれだけ尋ねる。
「五年前、お父様の都合で大阪の方に引越した幼馴染み……」
 その言葉に、紘平は頷く。
「せや。俺だけあっちから戻って来てん」
 どういう事だ?と、龍之介の思考はぐるぐる渦を巻き始めた。
 美弥と紘平は幼馴染み?
 自分の存在が浮気?
 ならば一年近く過ごして来た濃密な時間は何だったのか?
「……あ〜、細かい事は後回し!俺ら見世物ちゃうんやし、場所変えんで!」
 紘平の言葉で、龍之介は我に返る。
 ふと気が付けば突如として始まったドラマもびっくりの三角関係にファーストフードの客はおろか、従業員や周辺の客までもが興味津々でこちらを眺めていた。
「あ〜……」
 呻き声を上げた龍之介は頷き、美弥と共にそそくさとその場を後にする。
 ――とりあえず騒いでも大丈夫な場所という事で、三人は手近な公園までやって来た。
「……で、どういう事なんだ?」
 ある程度落ち着いた所で、龍之介は声を出す。
「それを聞きたいんはこっちや。美弥、俺らの約束はどうなったんや?」
「……った」
 ぽつりと、美弥は呟く。
「何が約束よ!先に裏切ったのはそっちじゃない!」
 そして、しくしく泣き始めた。
「裏切ったって……穏やかじゃないな」
 龍之介は眉をしかめる。
「俺が美弥の何を裏切った言うんや!?」
 気色ばんだ紘平が思わず叫ぶと、美弥は叫び返した。
「あの写真よあの写真!」
「はぁ!?」
 紘平が目を剥く。
「送った写真言うと……大阪のツレと一緒に撮ったのやな。あれの何が気に食わんかった言うんか!?ってかそれで俺と連絡切ったんか!?」
「とぼけないでよおっっ!!」
「誰がボケとんねん!?」
「美弥を泣かすなっ!!」
 たまりかねて、龍之介は叫んだ。
 泣いている美弥を抱き寄せると、美弥は龍之介に抱き着く。
「昔どんな事情があったかは知らないけど、美弥を泣かすな!」
 紘平は、言葉に詰まった。
「僕も混乱してるし……今日の所は、ひとまず帰ろう。頭を冷やしてから、改めて話し合うって事で」
「……せやな」


「済みません。ようやく寝付いてくれました」
 龍之介が階下へ姿を現すと、彩子はホッと胸を撫で下ろした。
 今回は龍之介が原因ではないものの、またしても美弥が泣いて帰って来たのだから彩子の胸中は複雑である。
「……それで、今回は何が原因なの?」
 龍之介へ自分の向かいに座るよう促してから、彩子は尋ねた。
 彩子の真向かいの席に座り、龍之介は口を開く。
「……高遠紘平という名前を、ご存知ですよね?」
 いきなりの質問に面食らったが、彩子は答えた。
「ええ。美弥の幼馴染みですもの……って、彼氏。何であなたがあの子の名前知ってるのよ?」
 龍之介は、肩をすくめてみせる。
 そして、簡単に事情を説明した。
「……と、いう訳です」
 説明を聞いた彩子は、理解しがたいと言わんばかりに首を振る。
「あの子が戻って来ていた事すら知らなかったものねえ。まさかバイトまで始めてるなんて……昔から、バイタリティだけは売る程溢れてる子だったから……」
 呟く彩子に龍之介は問うた。
「教えていただけないでしょうか?高遠紘平がどんな人物だったか。そして、美弥との間に何があったのか……」
 彩子は、目をしばたたく。
「それは……美弥の口から直接聞くべきじゃない?」
 龍之介は、苦い笑みを浮かべた。
「今の美弥に紘平との出来事を話せと言うのは、かなりなストレスだと思いますよ?」
 つられて、彩子も笑ってしまう。
「そうね……でもやっぱり、美弥の口から聞くべきだと思うわ。あの子にとっても、あなたにとってもね」


 ばたばたと階段を上がって来る音がした時、紘平は眉を歪めた。
「どこの誰だよ、ばらしたの……」
 誰かがばらさなければ、もうすぐ彼女に……美弥には知られずに、引っ越せたのに。

 ばたばたばたっ……がちゃっ!

 けたたましい音を立てて、美弥が部屋に飛び込んで来る。
「紘ちゃん!!」
 驚きに彩られた表情と、不安に揺れる瞳。
 幾重にも固めたはずの『知られずにお引越』をするための心の砦が、脆くも崩れ去った。
 離れたくない。
 離したくない。
 十二年間一緒にいた幼馴染みを……初恋の相手を、こんな風に悲しませたくなどない。


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