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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み5 〜MEMORIAL BIRTHDAY〜-14

 数日後。
 再びバイトの日が巡ってきた龍之介は前回とは打って変わった浮かれ調子で、ロッカールームに入った。
 今日は先に来た紘平は既に制服に着替え、携帯片手に誰かとお喋りしている。
「あぁ、分ぁっとるがな。そこら辺は信頼しといてやー?」
 紘平はふと目線を上げ、龍之介に気が付いた。
「あ。龍やん来てんねんし、時間やから切るで……うん、ほなまたな」
 電話を切ると、紘平はにぱっと笑う。
「おはようさん」
「おはよう」
 紘平は、携帯をぷらぷらさせた。
「今の電話な、俺の彼女やねん」
 ロッカーを開けて着替えを始めた龍之介は、驚いて目を見開く。
「もう美弥を取り戻せんて分かったんやし、新しい恋に生きる男にならんとな。てな訳で、そのうち紹介したるわ」
「はぁ……」
 諦めがついた事を行動で示す元彼の態度に、龍之介は安堵した。
 もしも紘平が美弥の事を諦めず、本気で取り返しにかかったら……龍之介にはたぶん、為す術がない。
 自分と過ごした一年と、紘平と過ごした十年余り。
 美弥にとっては、どちらが重要なのだろう?
 ――そんな事を考えていたせいか、本日のバイトはミスを連発してしまった。
「龍やん……もうちょいピシッとせいや」
 細かいフォローを入れてもミスする龍之介に、紘平はやや呆れ気味である。
「ごめん……」
 龍之介としても、素直に謝るしかない。
「今度ミスったらペ……」
 言ってる傍から龍之介が、氷の入ったグラスを落っことした。
「……ペナルティやで」


 散々なバイトを終えて落ち込んでいる龍之介だったが、とりあえずは美弥にメールを送って本日のバイト終了を告げた。
 すぐに返信があり、迎えに行く旨が書いてある。
 着替えた龍之介は、通用口付近で美弥を待つ事にした。
 ――龍之介が予想していた通り、このファミレスは女性客が多い。
 そこが龍之介にここでのアルバイトを決意させた訳だが、実際に数時間バイトしていると心身共に激しく疲労してしまう。
 何と言っても、女性と触れ合わない時間の方が少ないのだから。
 美弥はその事を見越し、龍之介の疲労を和らげるべくバイト終了後に迎えに来てくれるのである。
 美弥の目は正しく、お喋りしながら家へ着く頃にはぐったりする疲労など吹っ飛んでいた。
 感謝感激雨霰、である。
「龍之介〜っ」
 声のした方に振り向くと、美弥がのんびり歩いて来る所だった。
「お疲れ様」
 近くまで来た美弥は足を止め、小首をかしげて微笑む。
 その仕草が異常に可愛く見え、龍之介は美弥を抱き締めたくなった。
 人目があるので何とかそれを堪え、美弥の頭を撫でる事で誤魔化す。
「毎度気を使わせちゃって、悪いね」
「気にしな〜い気にしな〜い。好きでやってるんだもの」
 二人は、ゆっくりと歩き出した。
「あ、ねぇ」
「ん?」
「今度さ、瀬里奈と一緒に遊びに行っていい?」
 言って様子を窺う美弥へ、龍之介は頷いてみせた。
「構わないよ。ちゃんと注文さえしてくれれば」
「……しっかりしてるわね」
 美弥は苦笑し、龍之介に寄り添う。
「それじゃ、今度遊びに行くから」


 再び、数日後。
 美弥は瀬里奈と共に、龍之介と紘平が働くファミレスへやって来ていた。

 カラーン……

 ドアを開けると、取り付けられたベルが涼しげに鳴る。
「いらっしゃいませ」
 聞き慣れた声がして、美弥はそちらを振り向いた。
 制服をソツなく着こなした龍之介が、ウィンクを一つくれる。
 途端にあちこちから、舌打ちや悲鳴が聞こえた。
「???」
 美弥は周囲を見回し、それらの原因に気付く。
 店内は、美少年二人を見て目の保養をしようという女性客がたむろしていた。
 爽やかさと凛々しさを併せ持つ龍之介。
 人懐っこくおねえさんキラーな笑顔の紘平。
 ビジュアル的に申し分のないこの二人がテキパキ働く様は、確かに目の保養になるだろう。
 そのどちらとも付き合いのある美弥は、何となく気分が重くなった。
 今更の話だが、元彼と今彼が仲良く勤務している場所へ遊びに来るなんて浅はかな真似を、我ながらよく考えつけたものである。
 席に案内して貰った美弥は、暗澹たる気分で注文をした。


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