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闇よ美しく舞へ。
【ホラー その他小説】

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闇よ美しく舞へ。 7 『霊が見える』-3

 さて。
 3階の廊下を過ぎ4階へと上がる階段にたどり着いた時だった。
「ねえ龍神さん。今の見えた!」
 突然皆藤がそう言いながら立ち止まった。
 美闇は何の事かさっぱり解からないと言ったところだろう。
「何か見えたの?」
 そう言ったきり、取り立てて表情を変えるでもなく、また押し黙ってしまう。
 すると皆藤、
「あれは浮遊霊(ふゆうれい)だね。まあ通りすがりの幽霊みたいな物だから、どうってことないよ」
 そんなことを口にする。
 美闇は聞かされて、
「……そう」
 と声を返すだけだった。

 
 4階の廊下を通り過ぎ、屋上へと出てくると、また皆藤が立ち止まる。
「ほらあそこのフェンスの隅っこ、座り込んで居る奴が居るんだけど、龍神さん見える?」
 そして、またそんな事を言い出すと、誰も居ないフェンスの下を指差していた。
 美闇は、
「ううぅん」
 気のない返事を返すと、軽く首を横に振っていた。
「あれは以前、この校舎の屋上から飛び降りて自殺した生徒の呪縛霊(じゅばくれい)なんだ。自殺なんて事をするとね、魂が成仏できなくなって、ああやって霊魂が死んだ所から動けなくなるのさ。まあ〜自殺なんかした報いってやつかな」
 皆藤はそう言って、一通り幽霊についての解説を始めるが、やはり美闇には興味が無いらしいかった。ときどき「そう……」と生返事をするだけで、取り分けて驚く風も無い。
「チェッ!……」
 どうやら相手が、そんな不感症的女の子とあっては、皆藤も張り合いがなかった様子である。口を鳴らすと、そそくさに鉢巻をフェンスに括り付け、さっさと屋上から去ろうとしていた。
 すると。
「ねえ…… 皆藤くんて昔から幽霊とかが見えていたの?」
 突然の美闇の声に、皆藤も一瞬驚きで顔を曇らせもする。が。
「昔からってわけじゃないさ」
「へぇ…… じゃあ何時からなの?」
「そうだなぁ…… 一ヶ月ぐらい前からかな。確か期末試験の勉強に生きず待ってた時だから」
「そう…… あんがい最近なんだね。でもどうして?」
「それが自分でもよく解からないんだけどさ。……そうそう確か勉強がテンパッちまってて、どうにもならなかった時だよ。ほら、家の親って成績にうるさいからさ! 塾だって3っつも行かされてたんだぜ!!」
「それは大変ねぇ」
「確かあの日。イライラしてたんで息抜きにでもって部屋を抜け出して…… そうそう気が付いたら学校に来てたんだ!」
「まあ! 学校に?」
「そこで変な物を見たんだよ!」
「変なもの?」
「俺が学校の前を通りかかって、それで校舎のほうを眺めていた時だよ。なにやら校舎の廊下を白いものが通り過ぎて行ったんだ」
「白いもの?」
「俺は何だろうと思ってそいつを追いかけたのさ。非常口から忍び込んで校舎内をうろついて、体育館へ通じる通路の先でそいつを見つけたんだ。そして良く見ると、そつは女の子の姿をした幽霊だったのさ」
「女の子の幽霊! ……でもそんなもの見て怖くなかったの?」
「そりゃぁ俺だってマジでビビッたさ。でもさ、そんなのってめったに見れないじゃん! だから俺はそいつの後を付けたんだ。……すると」
「……すると」
「体育館裏の桜の木、そこまで来たら消えた」
「…………消えたの。……それだけ?」
「……ああ。それだけだ。……それからだぜ、俺が人魂(ひとだま)とか幽霊とかが見えるようになったの」
「……ふ〜ん」
「なあもういいだろ。とっとと帰ろうぜ! なんか俺もう、肝試しって気分じゃねーし。龍神さんも俺みたいな男子とじゃつまらないんだろ」
 いい殴って皆藤は、美闇を尻目に、足早にと階段を降りて肝試しのゴール地点である裏門出入り口へと向ったのだった。


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