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握手
【純愛 恋愛小説】

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握手-1

先輩の手が好きだった

あたたかそうな、大きな手

つないでみたいと、いつも思っていた

冬なんかとくに―

それより何より、私は先輩のことが好きだから

だから手をつなぎたい

       『握手』

 火曜日は毎週一緒にお昼を食べる。この日は2人ともヒマだから。
でも残念ながら2人きりではない。
もう一人センパイがいて、3人で食べる。この日は3人ともヒマだから。
 最近寒くなってきたけれど、今日は着込んだコートが荷物になるほど暖かい。
学食でお弁当を買って、外のベンチでランチとなった。くだらない話が楽しい。
先輩が私の話を聞いてくれるのが嬉しい。
 お弁当が空になると、あたたかな陽射しもあって眠くなってくる。
センパイがベンチの脇の階段にごろりと横になる。荷物になっていた自分のジャケットを枕にして。
私のコートを体に掛けて。そのうち本当に眠ってしまったらしく、小さな寝息が聞こえてきた。
先輩と私は顔を見合わせる。小さく笑った。
 ベンチの後ろに手をついた姿勢で、先輩は楽しそうに話を続けた。その手がとても魅力的なものに
思えた。
「先輩、握手していいですか」
会話が途切れたとき、私は切り出した。
あまりにも普通に突拍子もないことを言った私を、先輩はあっ気にとられた顔で見つめてきた。
「握手」
もう一度、私はいつもの口調で言った。
ただ私を見つめていた先輩が、にわかに、弾けるような破顔を向けてきた。
「なんで握手?」
笑いながらも先輩は手をさしのべてくれた。
私も手をのばす。
自分の手が、隣の大きな手に近づくとますます小さく思えた。
自然な力と思いを握る手に込めて、わずかな間先輩の手に触れた。
ぬくもりが心地よかった。
無言で握手を交わし、無言で二つの手は離れた。
「へへ、満足」
ベンチの向こうの今は止まっている噴水を見ながらそう呟いた私の顔が、満面の笑みを湛えている
ことは自分でも分かった。
「手ぇつなぎたいわけじゃないの―」
素朴な疑問をあらわした声音が、横でジャンパーを羽織っている。
少し陽射しが弱くなってきた。やっぱり冬だ。
私もセンパイからコートをひったくって着込もうとした。
掛け布団を奪われたセンパイはのそのそと起き上がりながら腕の時計を見やり、
バイトいってくる、とぼそっと呟き階段を上って行ってしまった。
 何はともあれ、コートを着込みながら答えた。
「手つないでくださいって言ったら告白してるみたいじゃないですか」
コートの襟を立てながら私はベンチに座りなおした。
「―じゃあ、手ぇつないでください」
さっきの握手を求めた私の口調そっくりに、先輩が私に手をのばした。
今度は私があっ気に取られた。
勢いよく先輩に顔を向けたのは良いものの、それ以上どう動けばいいのか分からなくなった。
「手―」
笑いながら先輩は差し出した自分の手を一度上から下に振った。
それに誘われたように、私は手をのばしていた。
 さっきの握手と同じように無言で手を重ね、さっきとは違ってしばらくそのままでいた。
火曜は時間がたくさんあったから。


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