投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

気付かずの恋
【少年/少女 恋愛小説】

気付かずの恋の最初へ 気付かずの恋 8 気付かずの恋 10 気付かずの恋の最後へ

気付かずの恋-9

「私は―…貴方が好きだよ」

「一番、話せるから?」

「―そうかもしれないし、違うかもしれない」

「前と違うのな」

「…冷えてるね、身体」

「待ってたからな」

「―……ありがと」

「俺も、お前が一番好きだよ」

「一番、マシってこと?」

「そうかもしれないし、違うかもしれないな…」

「パクりだよ、私の」

アルはすっと身体を離し、弥世の額に冷えた唇でキスをした。
それから額同士をひっつけて、目を伏せた。

「――無理矢理にでも、連れていきたかった」

「…私も」

弥世はそう言い、少し上にあるアルの冷たい頬にキスをし、抱き締めた。

「死なないで………アル」

「あぁ」

「ふっ、また『あぁ』の虫」

「お前は………泣くなよ、ヤヨ」

「『あぁ』」

「は、お前こそパクりだ」

クスクス笑い合い、暫く抱き締め合った。
やがてどちらともなく腕の力を緩めていく。
離れた身体の隙間を、冷たい風が吹き抜ける。
別れの合図。

「バイバイ」

「じゃあな」

永遠の別れかもしれないのに、それはあまりにも淡白な言葉。
少年の黄色い頭が、くるりと背を向けそのまま闇に溶けて行った。けして振り向くことなく。
いつしか月は雲に隠れ、辺りは夜に支配されていた。

少女は泣くことも出来ずに、夜に飲み込まれてしまった彼の進んだ方向をぼんやりと見つめた。
冷たい風も、いつもは怖い夜の森も、無に等しく映った。


それは、恋と呼ぶにはあまりにちっぽけな感情で、
まるで書き間違えた御伽草子。
幼さ故に、ハッピーエンドになり損ねた2人の想いは、
この夜の闇に溶け出して、形を失っていった。
お互いの存在と共に。


「「大丈夫…大丈夫…」」


バラバラの道を歩む2人は、お互いに知らぬうちに同じ科白を舌に乗せる。
痛く苦しく締め付けられる胸を押え込み、『あぁ、あの人が好きだった』と遅い自覚に喘ぐ。
そして、どうか不器用で優しいあの人が幸せになれるようにと、信じぬ神に祈りを――。


夜は優しく全てを受け入れ、そしてまた、朝がくる。

野が朝日に照らされる頃、少女はまだ井戸の縁。
感傷とも言い切れぬ思いを抱き、
アルの居ない日常が始まる。

弥世は彼に怒られぬよう、そっと泪を流した。


気付かずの恋の最初へ 気付かずの恋 8 気付かずの恋 10 気付かずの恋の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前