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にわか雨
【純文学 その他小説】

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にわか雨-2

 三回雨が降ったのち、ようやく持ち主が交番に現れた。
 対応したのは先日と同じ警察官で、携帯電話のことをよく覚えていた。私はスチールロッカーの中から取り出され、ついに持ち主の手に渡った。
 持ち主は落胆した。携帯電話は水を吸いこんで窒息死していた。ボタンを強く押し込むが聞こえたのは機械の軋む音だけだった。
「こないだにわか雨が降ったろう、きっとあれにやられたんだね」
「まいったなあ」
 持ち主は今にも泣き出しそうだったが、何度か操作を試みるうちに諦めをつけたようだった。
 受け取りのサインをして、死んだ携帯電話をポケットに入れた。私はポケットの暗闇に包まれた。視覚を失い、音も遠ざかった。捨てられることを覚悟した。彼は燃えないゴミの日に私を手放すだろう。不燃物の埋立地を想像して、悲しくなった。生きたまま埋められるというのはどんなに苦しいだろう。携帯電話は死んだが私は生きている。それとも私には命さえないのだろうか。


 再び光を浴びたとき、私の目の前には女の子がいた。
「そうですか、壊れてしまったんですか」
 持ち主は頷いて、そして礼を言った。
「交番で聞いたんだ。君が俺の携帯のために走り回ってくれたこと。それが嬉しかった。何かお礼ができるといいんだけど」
 でも女の子は見返りを求めていなかった。届出のサインも謝礼を断るためのものだった。持ち主はお金を払おうとしたが、女の子は首を振った。
「俺の気が済まないんだ」
「お金はいりません。でも、もし何か差し出したいのなら、これを頂けませんか?」
 彼女は私を指差した。
「でも壊れているよ」
「私が欲しいのは、こっち」
 彼女は携帯電話から私を外した。
「猫のストラップ? もちろん構わないけど、こんなものでいいのかい?」
 嬉しそうにうつむく女の子を、持ち主は不思議そうに眺めた。女の子は私を指でつまんで、頭上にかかげ、陽に透かすように私の動かない体を眺めた。

 私は住処を変え、今では女の子の携帯電話の住人だった。今の持ち主は前の持ち主と違い、よく私に話しかける。私には声がないので、にわか雨のあの日のように届かない言葉で応えるばかりである。届かない感謝を並べるばかりである。


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