『理不尽な話』-1
昔々のお話です。
ある小さな村に、神の子として敬われている少年がいました。
少年は何でもできました。勉強だって、運動だって、なんでもできました。
小さな村の誰もが少年を敬い、愛していました。
その少年も、村人をとても愛していました。
ある日のことです。少年の友達が泉に溺れてしまいました。少年は助けようと、泉に飛び込みます。
でも、そこは神様が住んでいる泉でした。
そのことは、村人の誰もが知っています。そして、「誰もこの泉に入ってはいけない」という掟がありました。
少年の友達は足を踏み外したのです。わざとではありません。
少年はそう考えました。だから、助けるために泉に入るのも、悪いことでもありません。
だから少年は泉に飛び込みました。
友達を助けるために飛び込みました。
友達は助けられました。友達はとても喜んでいます。少年も友達が助かって、とても喜びました。
しかし、どうでしょう。泉が金色にピカピカと光ると、立派な白い髭の老人が泉から現れたのです。
「ここで水浴びをしていた者は、お前たちか」
年老いた容貌ですが、こちらに何も言わせない雰囲気があります。それでも少年は、自分が正しいことをしたと思っているので、こう言いました。
「違うよ。僕の友達が溺れちゃったんだ。友達は泳げないから、僕が助けたんだ」
「ほう。この泉には入ってはいけない、という私の言いつけを無視してまで助けたのか」
「僕は悪いことはしてないよ」
少年は自信があります。自分は正しいことをしたのですから、怒られないと思っています。
「例えどのような理由があろうと、この泉には入ってはいけない。その言いつけを守れなかったのは、悪いことではないのかね?」
少年は言葉が出ません。神様が言っていることは正しいからです。でも、少年は言います。
「それでも僕は、友達を助けたかったんだ」
すでに少年は頭が回りません。目から涙が溢れてきそうなほど、気持ちが高ぶってしまっています。そして、とうとう、少年は神様の怒りを買う一言を言ってしまいました。
「溺れた子供も助けられない神様に、何を言う権利があるっていうんだ!」
神様は、もうかんかんです。顔を真っ赤にして、少年に言います。
「なんと愚かな子だろう! 私が今までそなた達にしたことを、知らぬと言うのか! いつも美しい水をお前たちに与えてやったというのに!」
まだまだ神様の怒りはおさまりません。