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恋の奴隷
【青春 恋愛小説】

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恋の奴隷【番外編】―心の音G-2

「おばさん、早く火を止めに行かないと!」

私が慌ててそう言うと、ただならぬ殺気がそこらに充満して。思わずぶるっと身震いをした。

「なっちゃん…今なんて?」
「…いや、だから早く火を止めないと…」
「その前!」
「えっ…おば…」

私の言葉を遮るように、ノロのお母さんの人差し指が私の唇にそっと触れた。

「なっちゃん?私のことは“朱李【しゅり】さん”って呼んでね?」

ノロのお母さんは俯いたまま、優しい声で私にそう言い聞かせる。

「え、でも…」
「間違っても“おばさん”…なんて呼んじゃだめよ〜」

ぱっと顔を上げてそう言うノロのお母さんは、さっきと変わらず、にこやかな表情だけれども。その額には、ぶっつりと青筋が浮かび上がっているわけで。全身の血がすーっと引いていていくのを感じ、私は黙ってこくりと頷いた。すると、ノロのお母さん…朱李さんは、何事もなかったかのように、フリルのエプロンを揺らしながら軽やかに階段を駆け上がっていった。
この一連のショッキングな出来事を、あぁそうですかと、すんなり受け入れられる程、私の思考はぶっ飛んではいないわけで。ノロはバツの悪そうな顔をしてぼそりと言う。

「ま、そうゆうことだから……」

どうゆうことですか…?

現状が把握できるに至っていない私は、混乱と動揺で言葉に詰まってしまい、ただただ呆然とその場に立ちすくんでいたのだった。



「それにしてもなっちゃん綺麗になったわねぇ〜」
「いえいえそんな滅相もない…」

それから、私は椎名家のリビングルームに通された。朱李さんはソファーに腰を掛け、優雅に紅茶をすすっている。日本人離れした整った顔立ち、しなやかな手足、すらりとした体型。どこをとっても完璧で、さっきから朱李さんが足を組み直すたびに不本意ながらドキドキしてしまう。ノロはというと、朱李さんが焦がした鍋を必死に磨いていて、キッチンからはガリガリと金属の擦れる音がしている。どうやらノロも朱李さんには逆らえないようだ。

「次は一緒にお買い物に行きましょうね♪」

ノロのことなどお構いなしといった様子で、朱李さんは楽しげに声を弾ませている。“天真爛漫”とは彼女にぴったりな言葉だと思った。



「ただいま」

ようやく緊張も薄れ、鍋磨きの終わったノロも加わり、会話に花を咲かしていると、唐突に扉が開かれて。その声のする方へと視線をやると、ノロと同じかそれより少し高い背丈の男の子と目が合った。切れ長でやや吊り上がった目元は涼しげな印象を私に与えた。このクールビューティーな彼がおそらくノロの弟―葉月君だろう。その風貌が記憶のその人と重なる。ただ、その記憶と異なるのは、間違いなく性別が男だということだろう。彼は不機嫌そうに眉間にしわを寄せてこちらを見ている。


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