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嵐が来る前に
【学園物 官能小説】

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嵐が来る前に-2

【第一部 成修中学編】


第一幕毎朝の風景

 部屋の中に侵入してくる、聴覚神経を逆撫でにする嫌な音。
 起き抜けにムカつく雑音を聞いた。
「今日も雨降ってんのぉ?」
 ただでさえ起き抜けは機嫌が悪いと言うのに、更に追い討ちをかけるような、意地の悪い運命の女神とやらを呪いながら、僕はノロノロとベッドから身を起こす。
『気ぃ悪い。学校、行きたくないなぁ……』
 ベッドに座り込み、そのまま前のめりに倒れ込みそうな体を支える。
『あ、でもそうすると片野さんに会えなくなるのか!』
 それは嫌だなと思った瞬間、現金なくらいに機嫌が直る。
「まずは顔でも洗うか…」
 いまだフル回転には程遠い頭を引きずりながら、一階の洗面所に向かった。
 そして洗面所に来ると、毎日嫌でも目にする鏡……。
『………誰だ!?
 この鏡の向こうからこっちを見てくる美少女は?』
  ぷにっ
 この一年でふっくらした頬をつねる。
 鏡の向こうにいる美少女も、自分自身の頬をつねってる。
 毎日こんなボケをかます。
 自分で言うのも何だが、掛け値無しに僕の姿は可愛かった。
 僕の前に立つ、セミショートの美少女……。

 しかしそれも、ボサボサの髪の上にボケまくった表情のせいで、いくらか輝きを失ってはいた。
 そんな姿でも、美少女の寝起き姿を見れると思えば、僕はそれなりに幸せ者。
 ………なんだろうか?
 ただ惜しいのは、それが自分自身の体だと言う事だ。
―鏡の前でしか会う事が出来ない『milagegirl』―
 それと引き替えにして、僕がそうと望み、鏡さえあればいつでも出会う事の出来る存在……。
 それからやおら、鏡に向かってウィンクしてみたり、可愛い仕草でポーズを作ってみる。
『……うあ。
 ホントに可愛い……』
 自分でやっといて赤くなってみたり……。
 鏡の少女も頬を桜色に染めあげ、その姿にまた愛しさを募らせたりとか。
『…いかんっ!
 これではまるでナルちゃんでわないかっ!!』
 そこに気が付いた僕は、大きくかぶりを振る。
 それが、毎日の日課になってしまったのは、困ったもんである。 因みにナルちゃんとは、自己陶酔趣味者『ナルシスト』の事である。
 その後僕は、激しい動きで顔を洗い始めた。
 そうする事で、その幻影が消えるんだ。とでも言うように。

 その後リビングに向かい、家族に朝の挨拶を済ませる。

「父さんは?」
「お父さんなら、もうとっくに仕事に出掛けちゃったわよ」
 僕の言葉に顔を向けるでもなく、母さんは洗い物をしながら答えてくる。
「今日は大阪の方に出張だって」
「ふ〜ん……」
 一度気のない相づちを打った後、明日が祝日だと言うことに気が付いて、再び尋ねた。
「日帰りで?」
「お父さんがアンタを放っといて、悠々と泊まって来れる訳が無いでしょう?」
 今度は振り返って答えてきた。
 その顔には困ったような表情が張り付いてる。
「重い……な」
 テーブルの上に用意されていたパンをかじりながら、口の中で僕は呟く。
「普通の娘がいる家じゃあ、ワザワザそんな気遣いしたり、しないんだよな……」
 今度はわざと聞こえるように言ってやった。
 母さんの動きがピタリと止まる。
「ゴメンね、晶……」
 身を震わせながら、涙声で謝ってきた。
「こっちこそ困らせるような事言ってごめん…」
 その背中に、僕は軽い気持ちで言った事に罪悪感を抱く。
「僕はこの体自体は嫌いじゃないし、母さんたちのことを嫌ってる訳でもない。
 だから余計に、昔みたいに扱って欲しいだけ」

「は、早くそう出来るように、母さんたちも頑張るわね」
 片手を顔に持っていきながら、そう言ってきた。
「お兄ちゃん、おはよ〜」
 僕はパンをくわえたまま、後ろを振り返る。
 そこには目を擦りながら、笑顔を向けてくる弟の優が立っていた。
「お〜。
 優、今日はちゃんと一人で起きて来たなぁ。えらいよ」
 そう言いながら手を伸ばして頭を撫でてやると、何がそんなに面白いんだと、尋ねたくなる位の笑顔を振り撒いてきた。


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