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《SOSは僕宛てに》
【少年/少女 恋愛小説】

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《SOSは僕宛てに》-5

「昔に戻ったみたい…か。いいと思う」
「…え?」
「あの頃みたいにさ、戻ってもいいんじゃないかな。二人で本屋に行ったり、その途中でお茶したり。ほら、部活終わった後、毎日一緒に帰ったろ。なんだかんだ言っても、あの頃って、凄く楽しかったしさ。こうやってまた逢えたのも、何かの縁…って考えて。…どうした?翔子」
気が付くと、彼女は悲しげに目を細めていた。その理由が分からず、僕は戸惑った。
「ううん。なんでもない。…そっか、それも…いいかもね」
翔子が微笑んだ。誰の目から見ても、無理をしているとしか思えなかった。やはり、何かを背負っている。そうとしか思えない。
「…何かあった?」
僕は言った。
「大丈夫。気にしないで下さい。…何でもないですから」
そんな顔をして、大丈夫と言い張る翔子。僕の瞳に哀しく写った。どうすれば、幸せそうな彼女をこの瞳に写せるのだろう。僕は少し考えて、こう言った。
「そうだ。今日、手紙書くよ」
「え…手紙?…誰にですか?」
「勿論、君にだよ。ほら、〔ノルウェイの森〕で主人公とヒロインが文通しただろ?あんな感じ。僕、朝は朝刊の配達あるし、昼は大学だろ?夕方もこうやって仕事あるし、結構忙しいから。手紙なら口じゃ言いにくい事も書けそうだろ?」
もしかしたら手紙なら、翔子に何があったのか、僕に打ち明けてくれるかもしれない。そんな淡い期待があった。僕の言葉を聞くと、彼女は逡巡するように考え込み、やがて口を開く。
「…うん。いいですね、それ。分かりました!じゃあ、明日の朝、手紙持ってきてくれますか?私も夕刊までに返事を書いておきますから」
「うん。そうしようか。じゃあ、僕はまだ配達が残ってるから、そろそろ行くよ」
「はい…。じゃあ、また明日」
翔子が手を振った。僕も手を上げてそれに答える。踵を返し、バイクに戻ろうとした時―
「あの…村瀬さん…」
声をかけられ、振り替える。
「何?」
「いまさらなんですけど…ちょっと、聞いてもいいですか?」
重い言葉を精一杯吐き出すように、翔子は言った。
「どうした?改まっちゃって…」
「もしかして…あの頃、村瀬さん、私の事が好きだったんですか?」
本当に唐突な質問だった。
「‥好きだったよ」
隠す必要もなく、僕は言った。翔子は少し、沈黙する。
「…好きだった…。過去系…ですね」
「あっ‥ごめん。いや、そう言うつもりじゃなくて…」
僕は慌てて取り繕おうとする。
「いいんです!…過去で…いいんです。あの頃に戻るんじゃなくて、また一から、私たちの関係を作り上げたいんです。初めて逢った時みたいに、お互い一から…だから、過去系でいいんです。」
特に傷付いた風もなく、翔子は言った。それは予想に反して力強い声で、僕は少しホッとした。
「いいよ。君がそうしたいなら、一からのスタートで僕はかまわない」
翔子が微笑む。今度は自然に。
「よかった!それが聞けたらいいんです。あっ、引き止めちゃって済みません」
「いいよ別に。あのさ、僕からも一つお願いしていいかな?」
「何ですか?」
「過去には戻らない。それはいいけど、一つだけ、あの頃に戻して欲しいものが在るんだ。別に大した事じゃないけど」
「…はい…なんでしょう」
「村瀬さんって呼ぶの、やめよ。あの頃みたいに『亮』でいい」
僕がそう言うと、彼女は笑ってうなずいてくれた。
「OKです!亮さん」
明るい声。そこに無理をしているという痛々しさはなく、僕は安堵感を覚えた。
「ありがと。じゃ、また明日」
もう一度手を振って僕等は別れた。陽は傾き始め、世界は茜色に染まろうとしていた。
 配達を終え、寮に帰り、夕食を摂ってから備え付けのシャワーを浴びて、僕はベッドに寝転んだ。翔子から借りた〔光の末〕と言う本のページを開き、読んでみた。淡々とした文章だが、冒頭部分には人を引き付ける何かがあった。正確な舞台は書かれていないが、登場人物の名前から察するに、西欧を舞台とした物語だ。


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