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幼馴染みの定義
【幼馴染 恋愛小説】

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幼馴染みの定義-7

 歩いている内に、とある駄菓子屋の前を通った。

 小学生のころによくハナや友達と行った、子供の為に在るような、小さくて温かみのある店。

 懐かしい、なんて思いながら店を通り過ぎた。

 ハナはどう思ってるのだろうか、と横を見ると、

「げ」

 よれよれの服、しわしわで冴えなそうな顔、カツラかと思えるくらい薄い頭髪。

 なんだこりゃ、ハナが哀愁漂う中年のおっさんになってしまった。

 いや、あまりの暑さで脳がやられてしまっただけかもしれない。

 目を軽く擦り頭をぶんぶんと振り、再度どこを見直しても、その人は間違いなく小太りのおっさんで、ハナの要素がまったくなかった。

 ひどく絶望しているとおっさんがこちらの視線に気づき、顔を振り向かせた。

「アイくん」

 ………。

 おっさんが今、おれに向かって「アイくん」と呼んだ。 しかもハナの声質はそのままで。

 なんというギャップ。 おれはハナに嫌いと言われ、そんなにショックだったのか? いや、かなりショックだったが幻覚を見ることになるとは。

「ねえ、アイくん」

 もうやめてほしい。 こんなおっさんの顔をしたハナから「アイくん」なんて呼ばれたくない。 ハナはハナだから、なんて思考を持てるほどおれは格好良くない、立派な現実主義者だ。

 この場にいると精神がぶっ壊れると確信し、おれは一目散に逃げ出した。

 が、肩を掴まれた。

「や、やめろよ! おれはおっさんなんか嫌いだ!」

「おっさんとか、なに言ってるの」

「お前はハナじゃな、へ?」

 あたり棒の代わりに、青くて四角い発光体が上半分以上を占めてる棒を持っているハナがいた。 その後ろにおっさんの哀愁漂う背中が見えた。

 既におっさんの悲劇は過ぎ去ったものとなり、おれの脳は今の状況の処理に忙しい。

「なんだ、これ」

「そこであたり棒と交換してきたの」

 駄菓子屋を指さした。

 呆れた。 こいつ、人がせっかくアイスを買ってやったのに。

「まあいいけど。 そんなに食べて腹壊すなよ」

 え、と呟くハナ。

「どうした?」

「アイくんのばーか」

 こめかみ辺りを汗が通った。 暑さのせいではないため、冷や汗に分類されるだろう。



「もしかして、それ、おれのために交換してきてくれたのか?」

 無言でアイスを舐めつつ早歩き。 これほど『怒り』を象徴する動作はない。


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