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Connection
【大人 恋愛小説】

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Connection-1

大人には不条理でも受け流さなくてはならない事が多々ある。

例えば、偏見だらけの中身を伴わない侮辱とか。

もう慣れた筈だったのに、やっぱり私はやり切れない。


「さーちゃんっ!ちょっとちゃあんと聞いてるのぉー?私もおっ!!その時いっそあの婆さんにお茶ぶっかけて帰ろうかとも思ったんだけどさ〜」
「あーちゃん、それもう五回目だよ…。夜更かしもアルコールも体に悪いよ、連絡しないと秀司さん心配するよ?」
「知らないもぉん。あんな奴ぅ。らめっ!電話しちゃあ。したら絶交するからねえー」
「はぁ‥‥。私、明日は当番なんだけど…。」
「今日はとことん呑むおーっ!!」
「はぁ‥‥…。」

目覚めてひどい嘔吐感と頭痛に襲われた。久しぶりの飲酒は予想以上に効いたらしい。
起き上がれず、目を周りに巡らすとベッドの脇に水の入ったコップが置いてあった。
それと小さなメモ用紙。
[亜耶香へ 先に出ます。朝ご飯はテーブルの上、鍵はポストに入れておいてね。 紗耶香]
我が妹ながら、完璧な心配り。私が男で、双子の姉でもなかったら是非とも嫁に欲しい。
アルコールのせいで虚ろになっていた嫌な記憶が一気に戻ってしまった。紗耶香を電話で呼び出して、愚痴って呑んで…その途中からの事は皆目思い出せないけれども。
水を飲んで、やっとベッドから抜け出す。勝手知ったる片割れの家、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターをもう一杯つぐ。
時計を見ると、すでに昼過ぎだった。
今日は…日曜か。看護士さんは大変だ。今日も出なくちゃ行けなかったなんて悪い事したなぁ、と気が咎める。
私がぐちゃぐちゃにした(らしい)ベッド以外はすっきりと淡い色合いで統一された部屋。昨夜私が脱ぎ捨てた(だろう)服もきちんとたたまれていた。
その一番上には着信ランプの五月蝿く光る私の携帯。
着信元は分かりきっているけれど、一応携帯を開いた。
――メール着信18件 電話着信23件
全て発信名は、"秀司"。
全部未開封のまま、削除した。

紗耶香が作った朝食を昼食として取り、皿を洗う。
さて、これからどうしようか。ぱぁっと買い物でもしたい気分だが、人混みに分け入る体力はないし、だからといってこのまま妹の部屋でごろごろしているのもいかがなものか。とにかく、外に出ることにした。

初春の柔らかな日差しさえも眩しい。二日酔いの頭には、太陽が黄色く見えて仕方無い。
いくら姉妹仲が良いといっても、妹のアパートの周りを熟知している訳では無い。結局一番通い慣れた道、つまり駅への道を歩いていた。
蟻の巣のように入り組んだ路線図を見て途方に暮れてしまう。こんなに駅があったって実際の所、決まった数個の駅しか使わない。この駅、会社最寄りの駅、乗り換えの駅、自分の部屋最寄りの駅。そんなもので大抵間に合うのだ。
行き先を考えると頭が痛くなる。もう何も考えたくなくて成り行き任せに電車に乗り込んだ。
中には何人か小学生が乗っていた。帰宅途中らしい。赤いランドセルで色違いのスカート。この子達くらいの頃は、母親の作るお揃いの服を着て、紗耶香と手を繋いで毎日学校に通った。放課後も一緒に寄り道して‥‥
「ほーらっ。ここ座って。」
私が思考を中断して、その声の主を振り返り見たのは、特に気になる声だったからではない。私が眺めていた子ども達が一気にその声に気を取られたからだ。
声の主は、小さな男の子を連れたお母さんだった。
ああ、子どもと母親はこんなにも強く繋がっている。小さな子にはお母さんの口調は絶対に特別なものなのだ。例えそれがガヤガヤ煩い電車の中でも、聞き分けられるものなんだ。

私は、行き先を決めた。


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