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明日になれば…
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明日になれば…-19

「居るんですねぇ」

「ああ、普通ならヤ〇ザに拉致されたと知った時点で、逃げ出すか知らん顔決め込むモンだ。それが真っ正面から向かって行くたあ…なかなか出来るこっちゃねえぜ」

「願わくば、無事に終れば良いんですがねえ」

その時、松岡のゲンコツが芦野の頭にヒットした。

「縁起でもねぇ事言うんじゃねぇ!馬鹿野郎が!」

「す、すいません親分」

「まったく…せっかくのすがすがしい気分が台無しじゃねぇか!」

松岡に怒鳴られた芦野は、子供のように頭を垂れた。





阿久津の運転するベンツの後を、橘がついて走らせてから30分ほどになる。これからの事を考えると緊張と恐怖から喉がカラカラだった。
しばらくすると、ベンツが停まった。橘もその後に停める。ベンツから阿久津が降りて来て、橘に言った。

「そこの角を左に曲がった正面に、草〇一家の事務所があります。ここから先は私は行けませんので……」

橘は阿久津に礼を言う。

「ありがとうございました。松岡さんに宜しくお伝え下さい」

「お気をつけて…」

阿久津は再びベンツに乗り込むと、もと来た道を帰って行った。

ベンツを見送ってから、橘はクルマを近くの駐車場に入れた。そして、助手席に置いた書き付けを燃えるような目付きで見据えた。



阿久津に教えられたビルは、小じんまりとした建物だった。規模としては3階立てで、1階はガレージ、以階は事務所兼住まいのようだ。窓は全てマジックミラーのため、外からは内の様子は伺い知れない。
ガレージもシャッターが閉められ、一種独特の雰囲気を醸し出していた。
先程の松岡興業は広い出入口だったが、ここは異様に狭い階段が2階へと通じており、その上にはテレビカメラがあった。
橘は思い出していた。何かの雑誌で見たが、ヤクザの事務所や邸宅には出入りなどで敵の侵入をしにくくするため、入口を狭く作ってあると。
階段を上がると、頑丈そうなドアが見える。橘は、横のチャイムを押した。が、何の反応も無い。再びチャイムを続ける。すると、チャイムのスピーカーから声が聞こえてきた。

「どちら様?」

聞こえたのは、ドスの効いた迫力のある声だ。

「橘と申します。松岡さんからの紹介で参りました。草野さんにお会いしたいのですが」

ガチャリと音と共にドアが前方に開く。中からは、いかつい形相をした数人の男達が、橘を取り囲むように迎え出た。眉毛の無い坊主頭や顔に傷の有る者、はたまた爬虫類のような目付きをした者など、母親以外には愛してもらえそうもない顔立ちだかりだ。


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