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君へ全力疾走!
【青春 恋愛小説】

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君へ全力疾走!-1

教育上、強制的にやらされてきた、徒競走やらマラソンやら。
友達との待ち合わせ、アルバイトの入り時刻に遅れそうになったとき。
汗をかくのが嫌いで、己の健康にもたいして興味がない俺が『走った』経験なんて、せいぜいそんなものだ。
誰かのために走る、そんなことは初めて。
「浅野!」
姿が視界に入り、思わず名前を叫んだ。
彼女はハッとして、こちらに駆け寄ってくる。
とりあえず、その身体に変わったところは無いようだ。
俺は少しだけ安堵して、彼女のもとに向かう。
「な、中尾、どうしの?そんなに慌てて」
「はぁ…浅野が…『今すぐ会いたい』って…電話…」
「したけど、べつに『助けに来て!』とか言ったわけじゃないじゃん」
でも、そんな一言を残して一方的に電話を切られたら、何か大事でもあったのでは、と思ってしまうではないか。
言い返そうとしたが、全力疾走の直後に呼吸はなかなか調わない。
「…心配してくれたの?」
伺うような表情が可愛くて、動悸の激しさが運動によるものか、彼女のせいか、わからなくなる。
「ああ…」
心配だった。
かなり焦った。
なぜなら、俺は浅野のことを…。
「好き」
自分の気持ちが、彼女の声で聞こえた。
混乱して立ち尽くしていると、彼女の細い指が俺の額に触れて。
「汗、すごいよ?」
ふわりと咲いた笑顔が、俺の心を容赦なく揺さ振る。
引き寄せられるようにその手を掴んで、彼女の目を見つめ返した。
「どうしてもすぐに伝えたくなっちゃって、電話したの。心配かけて、ごめんね。でも、うれしかっ…」
「好きだ」
今度こそ、俺の声。
「…もう、バレバレだと思うけど」
なんだか急に恥ずかしくなって、ごまかすように明後日の方向を見る。
「うん、バレバレ」
驚いて視線を戻すと、結構前からね、と彼女が悪戯っ子のような表情。
一本の電話で走らされて、心の中も容易に見透かされていて。
もしかして、俺って浅野に転がされてる?
「でも、そういう所も好き」
ほら、またそんな一言で、あと、百キロくらいは走れそうだ。


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