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煙草
【理想の恋愛 恋愛小説】

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煙草-1

ふとテーブルに目を向けると、巧の煙草ケースが置かれていた。
一つ抜き出し、口にくわえる。
火を点けたところで、横で眠っていた彼が唸り声をあげた。
「…嫌いなんだろ?」
「好奇心」
ふうん、と興味無さ気に伸びをする。
前の恋人も愛煙家だったけれど、女が煙草なんて最低だ、と私にはそれを許してくれなかった。
当時は欝陶しく感じたが、今は少し恋しい。
巧は、私に対して、命令も要求も束縛もしない。
「マズ…こんな物に三百円もかけるなんて。健康にだって悪いのに」
不意に彼の手が視界に入り込み、私の指からそれを奪ってそのまま唇へと運んだ。
さっきまで散々情事に耽っていたというのに、それと同等ないしそれ以上の卑猥な行為に思えて、背筋がゾクリと疼いた。
彼の唇、耳の下から顎の先にかけてのラインは、私が思う、彼の最も色気のある部位。
私の視線を捕らえて、離してくれない。
「…嫌いなんだろ?」
私がキスをすると、彼はそう言って笑った。
「うん、マズイ」
奪い返した煙草を渡し、
「でも、あなたは好き」
彼は、アホか、と戯れて煙草を味わい始める。
俺も好きだよ、なんて言ってくれないのはわかっていたけれど。
「ねぇ、巧」
「ん」
「私のどこが好き?」
「ははっ、何言ってんだよ」
彼は煙草を揉み消し、再び毛布の中に深く潜り込んだ。
瞼も既に下ろされていて、私の質問は流れてしまったらしい。
消しきれていなかった火をもう一度揉み消して、私もベットに沈む。
おやすみ、諦めてそう言おうとした時だった。
「アホなところ」
驚いて横を見てみるけれど、彼の目は閉じられたままで。
「巧、今のって…」
「おやすみ」
彼はそう言って、私に背を向けてしまった。
じわじわと込み上げてくる愛しさ。
巧は、私に対して、命令も要求も束縛もしない。
だけど、そこいるだけで、私の全てを離さない。
「おやすみ」
彼の煙草の香りに包まれて、私は幸せな夢へと旅立っていった。


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