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多分、救いのない話。
【家族 その他小説】

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多分、救いのない話。-5--10

 家庭訪問から二週間が過ぎ、暦も十二月に入った。冬休みに入ればクリスマスや年越し正月もあっという間で、学校も一区切り付けようと慌ただしくなってきたところだ。放課後の喧騒もどこか浮かれてるように感じる。
 慈愛はというと、実は終業式の一週間前から休むよう母から言われていた。理由は知らされていないが、“優しいお母さん”の時に言われたので、きっと慈愛にとってもいいことなのだろうと思う。一番嬉しい予想としては、母がサプライズで何処か旅行に連れていってくれることだ。でもこれはさすがに都合良すぎるかもしれない。もしかしたら、母の会社で仕事を見学させられるのか。以前にも何度かある。会社での母は、“優しいお母さん”に厳しさを加えたような、毅然とした印象が強い。慈愛が会社にいても特に何もしないが、社会見学としての意味は非常に強いと思う。見学者の立場だから言えるのだろうが、見てる分には非常に興味深い。
 あるいは、親戚一同集まる『本家』に行かなければいけないのかもしれない。だったら嫌だなと思う。親戚連中は自分達のことを快く思ってないからだ。慈愛に対しての中傷は母を怒らせるから言わないようだが、母は自分への悪意ある中傷は一切無視する。母は無視できるようだけど、慈愛は母が悪く言われるのは我慢できない。だけど母が我慢しているのに自分だけ怒るわけにもいかず、だから親戚連中に遭う(あえてこの漢字を使う)のは嫌いだ。
 でもとにかく、学校に登校するのも今年残り僅か。色々持って帰るものを整理しないといけない。だから友人は待たせて、教室に残って荷物の整理をしていた。
「神栖」
 ――不吉な、既視感。
「……先生」
 葉月先生が、いた。そりゃいる。葉月先生はこのクラスの担任で、自分はこのクラスの生徒だ。
 葉月先生は柔らかく笑っている。でも慈愛には、わかってしまった。これは、自分を不安にさせない為の作った表情だと。
 優しさから来ているのかもしれないが、それでも嘘の顔だ。
「ちょっと、いいか?」
「……りぃとヒムカが待ってるのですよ」
 待たせてる友人二人の名前を挙げると、先生は困ったように。
「悪い。話が長くなりそうだから、俺が言って先に帰ってもらったんだ」
「…………」
「大事な話なんだ」
「……はいです」
 先生にここまで言われ、慈愛に断れるはずもなく。
 いつかと同じように、生活指導室に向かう。


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