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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第21章(後編)-7

「南風、優しい南風…」

呼ばれて、南風が顔を上げる。

「そなたに、わらわの後を継いで長になるようお願いします…。そして青嵐や、そなたがこの国の狗族を正しい方向に導いてくれることには何の疑問も感じてはおりません。よろしく頼みましたよ…。」

「ああ…玉藻様…!」

解けた九尾の糸が目元を残して吸い込まれてゆく。

「玉藻様!!」

子供のように泣く南風に、その目元が優しい微笑を向けて…彼女は、彼女が愛した男のもとへ還った。



―つねよりもむつましきかな時鳥しでの山路の友とおもへば―



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「何?あたしを放り出しに来たの?」

洞窟の奥のほうに、たった一人で座り込んだ茜のところに、飃がやってきた。ここから彼を見上げようと思うと、首が痛くなるほど上を向かなければならない。

「いや…ただ話がしたいだけだ。先程の話、連中には良い薬になったろう…矜持(きょうじ)だけは高い連中だからな。自分の不幸に他人が口を出すのが気に入らないのだ。」

茜は、ふと笑った。

「人間と変わんないわ。」

そして、微笑んだ顔は再び物思いの影に沈んだ。

「…さくらは前の半分も笑わなくなった。」

「ああ。」

飃も、痛いほどそれを感じていた。彼女は、ただ単に成長したからという言葉だけでは片付けられない落ち着きを身に着けてしまった。それは、染色したての布のように鮮やかだった彼女の表情を、洗いざらしたそれのようにみせる。それは、戦いの日々に揉まれ、擦り切れそうになるほど辛い思いをした彼女の苦しみを物語っていた。

「彼女が最近何に悩んでいるかわかる?さくらはね、自分が戦う理由を探しているのよ…狗族でも、人間でもない身の上だから、せめて、皆と一緒に戦うための理由が欲しいって。」

そして、怒ったように鼻を鳴らして、暗がりの中の狗族たちを見た。

「あたしはそんなの気にする必要なんか無いって、いつも言うの。あんたはあんたなんだからあんたのしたいようにしたら良い、って。狗族だろうと人間だろうとそんな大した違いがあるわけないんだから。」

「だが、彼女はそうは思っていないと。」

茜はうなずいた。

「たぶん、“中途半端”だからこそ、二つの違いがよくわかっちゃうのね。」

飃は、さくらのことを自分と同じくらい、いや、ひょっとしたらそれ以上理解しているこの娘に、敬意を覚えずにはおれなかった。いまどき、狗族にだってこんなに堂々としたものはそういない。彼女の父親に関わって、“鬼ごっこ”をしていた時から多くの人間と関わってきたが、それでも彼女のような人間には出会わなかった。


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