投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 365 飃(つむじ)の啼く…… 367 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

飃の啼く…第21章(後編)-5

「何のつもりだ…こりゃあ…!」

小部屋の中に充満する毒気に、颪は思わず鼻口を覆った。ほとんど目に見えるほど濃い瘴気が、小部屋の奥の中央にある几帳から漏れている。

「玉藻様!!」

南風はほとんど泣きそうな声で主人の名を呼びながら、毒気の中を駆け寄った。

「玉藻様!どうなさったのです!?」

そして、目の前に座するものの姿を見て、一瞬言葉を失った。颪の立つところからは、一体何が起きているのか見えない。だが、見ようにも動けないのだ…皮膚の下に巣食う呪い文字があまりに激しく暴れるせいで、その場に立っているのもやっとなほどだった。

「南風や…心配をかけて悪いことをしたの…。」

「澱みの仕業ですか?それとも、青嵐が…誰がこんなことを…。」

「誰でもないのですよ、南風。そのように怖い顔をするのはおやめなさい。」

母親のような優しい口調だった。

「これはわらわが行ったこと。責めを負うべきものなど、いはしません。」

頭に釘をつきたてられるような頭痛が、青嵐の首筋から全身に広がっていく。最もひどいわき腹の痛みすら何とか堪えて、青嵐は几帳に近づいていった。

「青嵐、おるのかえ?」

「気安く…おれの名を呼ぶんじゃねぇ。」

指の神経を乗っ取られたように痙攣する卸の手は、文字が埋め尽くして真っ黒になっていた。すでに二倍の長さに伸びた爪を必死に制御して、青嵐が進む。九尾の身に危険が及ぶことを懸念した南風が、彼の前に立ちはばかろうとするのを、九尾の声が止めた。

「よいのです、南風。」

青嵐が見たものは、父親から聞いていたものとずいぶん違った。九尾は、内面の醜さを白い女の肌で覆い隠して、その妖艶なる目は己の役に立つものと立たぬものの区別をつけるためにのみ動く。小さな口を開けば嘘か悪意の言葉しか出てくることは無く、たおやかな手の先の爪は常に鋭い爪が伸びて居ると。

青嵐が九尾に会うときは、九尾が死ぬるときであると、父は言った。九尾を呪って絶えずうごめく青嵐の亡霊が、九尾を見た瞬間にその息の根を止めんとするであろうから、と。だから、青嵐も、彼の父も、またその父も、実際に九尾の姿を見たわけではないはずだ。もし見ていたとするなら、彼らの言葉は嘘だったことになる。いま、青嵐の目の前に居るのは、身体の半分を歪(いびつ)な玉に変化させた、小さな、いかにもか弱そうな女だった。彼女の右半身は飴細工のように引き伸ばされ、床の上のこぶし大ほどの玉に巻きついている。その玉は絶えず回転しながら、九尾の身体の一部を細く引き伸ばしてその玉自身に巻きつけていた。

「一体…。」

言葉を失う彼の耳に、いつものささやき声が聞こえてくる。

―何をしている?殺せ!青嵐の一族が味わった苦しみを、この女に与えてやるのだ…

黙らせる術を他に知らない颪は、わき腹に…そこに刻まれた一番大きな呪い文字に自らの爪を立てた。


飃(つむじ)の啼く……の最初へ 飃(つむじ)の啼く…… 365 飃(つむじ)の啼く…… 367 飃(つむじ)の啼く……の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前