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甘辛ニーズ
【コメディ その他小説】

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辛殻破片『甘辛より愛を込めて』-10

 ……どの問題も情報が足りない。 集めたくても今の僕は行動範囲が狭いし。
 最善の選択といえば『聖奈さんの帰りを待つこと』ぐらいしか思い付かない。
 透は夕焼けの落ち時辺りに帰ってくるはずだから…。

 聖奈さんは雪柳宅の専属家政婦だ。 どこぞのサスペンス劇場じゃないけど[家政婦は見た!]か。
 話を聞く際に「お部屋をお連れします」とか言われたら笑ってやろう。


 ふと凪の方へと目を向ける。
 座りながらテーブルの上で自分の腕を枕代わりにして、心地良さそうに眠っていた。
 呑気だな、と思ったりもしたけど、悪い言い方をすれば、今は眠ってくれてる方が手間が省けるから良しとしよう。

 僕も適当に寛いでようかな、とイスに座ろうとした瞬間、

「ひあぁっ!?」

 心臓が止まりそうになるほど驚いた。
 急にどこからか、大音量の電子音が鳴り始めたからだ。
「えっ? なっ…?」
 最初は来客者が鳴らしたベルなのかなと思った。 しかし違う。
 よく聴くと、この音は…音楽?

「…『パッヘルベルのカノン』…」
 主にそれは近くから聴こえる電子音で、
 主に凪の周りから聴こえるような音楽だった。

「ああ………もしかして」
 正体に気付いた時、非常に後悔した。
 携帯電話くらい僕も持っておけば…と。

 それは凪のズボンのポケットに入っていた。

 未だうるさく鳴り続けるというのに、この人はなぜ起きないのだろうか。
 この場合、僕が代わりにやった方がいいんだろうけど…。

 ケータイなんて触ったことがないのだから、扱いもわかるはずがない。 つまり…。
「…電話?」
 今の御時世では『メール』とやらもあるみたいだが、僕にはさっぱりわからないことである。
 更に言わせてもらえば、ボタンの配置・役割すら…わからないことだらけである。

 とはいえ、一つだけ理解出来たことがある。

 液晶画面に映し出された数字と文字を見てわかったことだが。
 この携帯電話に連絡してきた人物の名前が『変態馬鹿男』であるということだ。


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