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月落ちる時君とワルツを
【悲恋 恋愛小説】

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月落ちる時君とワルツを-1

一緒にワルツを踊りませんか?
夢の中、彼女は俺の耳元でそう囁く。いつも、いつまでも。
幻想という名の夢と彼女の姿は俺の全てを飲み込み、彼女の静かな声だけが俺を絡めとる。悲しげで、なのに何処か解放された様にはしゃぐ彼女の声はさざ波の様に止む事はない。

俺も同じ答えを繰り返すだけ。いつも、いつまでも。
「踊れないんだ」
こんな答えじゃない。本当は違うんだ。だれか止めてくれ。俺は叫び続ける。ゼンマイ仕掛けの壊れた玩具の様に。どこまでも続く闇と光の中暗い迷いの道の中。俺は何処へ向かうのだろう
そしてそんな夢から醒めた俺は錆び付いたモノクロの現実の中、彼女に会いに行く。

白い部屋。白いベッドの上に横たわる彼女の姿。
開け放たれた張り窓から初夏の湿った風が彼女と俺を撫で、白いカーテンをはためかせていた。
彼女はいつも眠っている。いつも、いつまでも。
かの人は今何を想ふ?


月明かりの下、樹の元。
これは柘榴石の樹。
彼女の静かな声。
草原にただ一本佇む樹。その元、月明かりに照らされながら、彼女は独り低く静かにハミングをしながらワルツを踊り始める。
白い月明かりの下、柘榴石の樹の元。いつも、いつまでも。ワルツを。ただ独り。

彼女は俺の姿を認めると、静かに微笑み、俺に囁く。
「一緒にワルツを踊りませんか?」
いつまで繰り返すのだろう?否、繰り返されるのだろう?
喉が焼ける様に痛い。壊れた玩具の歯車は何処にあるのだろう。
「踊れないんだ」

俺はそう答える。繰り返されていく答え。積み上げられていく夢、現実。
彼女は少し淋しそうに微笑むと、ワルツを再び踊り始めた。月明かりの下、柘榴石の樹の元。低くハミングをしながら。いつも、いつまでも。
月の化身の様な彼女。答えられなかった答えが俺の中で牙を剥き静かに響き渡る。
「踊れないんだ。でも、踊りたいな」月の下、柘榴石の樹の元。君と一緒に。いつまでも。
彼女は静かに独りワルツを踊り続ける。

白い部屋。白いベッドの上。
開け放たれた張り窓からは深い秋の風が俺の頬を撫で、白いカーテンをはためかせている。
季節はめぐる。

白いベッドの上に彼女の姿はもう、ない。

彼女が消えたこの白い部屋で俺は独りワルツを踊り始めた。彼女がいつも静かにハミングしていた名も亡き詩を、今俺も静かに低く口ずさみ始める。
月落ちた今、君の幻想とワルツを踊ろう。いつも君と。いつまでも。



fin


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