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最後の、キス。〜『wonderful world』Sena ver.〜
【悲恋 恋愛小説】

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最後の、キス。〜『wonderful world』Sena ver.〜-1

いっそのこと、こなければいい。約束なんて、忘れていればいい。
今日だけは、あなたに会いたくない──。

彼を待つ間、心の中で何度も繰り返した。
雪を閉じこめた曇り空。寒くて、薄暗い日曜の昼下がり。
二人の最後がこんな日だなんて、あのときは思いもしなかったな。
夏だった。暑くて、眩しくて。
手をつないだのも、キスしたのも、ずっと後になってからだったけれど。
あなたが、かわいいって言ってくれた。一緒に沈んでいく夕日を見た。
初めてがいっぱいつまった一日。
昨日のことみたいって思っているのは、私だけなの?

待ち合わせ10分前。あなたが私をみつけて駆け寄ってくる。
一瞬、びっくりした顔したね。待ち合わせ場所にはいつも先にいてくれたから。
今日は30分前に着いてたんだ。
もし、あなたが先にいるのを見たら、怖くて会える自信がなかったから。

目と、目が、合う。
何も話さなくてもわかる。あなたは覚えてる。
『東京に行く前にもう一度、一緒に海、行きたいな』
合格が決まった日。私が何気なく言ったこと。あなたは覚えてる。
あなたの大きな背中が遠ざかり、ひっぱられるように私の足が後を追う。
…学園祭、思い出しちゃうな。
あの日もこうやって、あなたの背中を見て歩いた。
並んで歩きたかったのに、何度も人ごみに飲まれた。
でも、不安じゃなかったのは、しっかりと手をつないでいたから。
今は触れないあの優しい手に、私は守られていたんだね。

ザザァ…
波の音が聞こえてきた。
あなたが立ち止まり、私も横に並んで立つ。
強い風が吹き付ける。冬の、海。
私たちは、進むことも戻ることもせず、ただ海を眺めた。
寒さを越えて、ちくちくと突き刺さる。

聖なる夜。あなたは二つのプレゼントをくれたよね。
誕生日だから?って聞いたら、ちょっと照れたように首を横に振った。
『去年の分。買ったけど渡せなかった。やっと、届いたな…』
包みをほどくと羽根の生えたテディベアが笑っていた。
『やっと逢えたね…』
一年前はすれ違うだけだったのに、今は恋人になれた奇跡を教えてくれた日。

ザザァ…ザザザァ…
激しさは増すばかり。
「寒いよ…。もう、行こう?」
そう言うのが精一杯だった。
弱虫の臆病者。
あなたが去ろうとしている今、私はそれ以上の何でもない。
「そんな格好してるからだろ」
あなたはマフラーを取って、私の首に巻いた。
目と、目が、合う。
そのまま腕の中に包まれる。
長い、抱擁。
──。

ザザァ…

ザザザザァ…

あなたの体温が、波の音と一緒に染み込んでくる。
涙が、止まらない。


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