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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第20章-7

四国の長、御祭(ゴサイ)は陽気な表情の狸の面をつけていた。身体も小さく身軽な彼は、ドロンと煙の中から千鳥足で現れた。片手には酒のひょうたん。夫婦役の前に出るなり、ぐいっとその酒をあおって、酔いに拍車をかける。笑いに包まれる会場を、ふ、と見やった は、観客に軽く手を振って危なっかしく舞台の欄干に乗った。綱渡りよろしく、よろよろと端から端へ渡ってゆく。途中大きくよろけたり、その場で宙返りをしたり。これには見ている人も息を飲んだ。最後に御祭は、どこからか紙ふぶきを取り出して、自分のために撒いて消えた。



中国地方を治めているのは一風変わった狗族だった。彼は仮面をつけずに、赤く細い、包帯のような布で何重にも目隠しをしていた。

「颶(ホウ)は雷獣と狗族の合いの子なんだ。」

傍らのカジマヤが言う。

「ああやって目隠しをしていないと目から雷があふれ出ちゃうんだって。」

彼は、黒髪と美しい対象をなす赤い布を、計算しているかのようにひらめかせて、夫婦の傍らで舞った。彼が手をたたいて夫婦の足元を指差すと、その指から小さな雷撃が迸り、舞台の上を閃光で包む。目をしばたいた観客がようやく何が起こったのか気がつくと、大きな歓声が起こった。夫婦の足元を、よく実った稲穂が囲んでいたのだ。



観客席の後ろのほうから、悲鳴のような、歓声のようなものが上がる。込み合う席で可能な限り身体をねじると、「澱み」役の黒子が、黒い布をかぶって舞台に向かっている。琉球、九州、四国、中国と来たら、次は…

舞台を見ると、真っ黒な狼の面をつけた飃が、雨垂を構えて立っていた。狗族の民族衣装を身にまとい、風に長い髪を梳かれて静と立つ彼の姿に、一気に顔が赤くなる。いや、別に顔を赤らめる必要なんて無いんだけど…何だか嬉しくて、自慢げで…とにかく、どうかカジマヤに見られていませんように。

飃は、風と戯れるように舞い踊り、時に澱みをかわし、時に脅すように舞台を踏みしめ、鋭い突きを見舞う。演技に過ぎないのに、演技だと感じさせない張り詰めた空気に、観客は息をするのも忘れて見入っていた。やがて、飃が短い旋律を狗族の言葉で歌うと、舞台上にに強い風が吹いて黒い布を巻き上げた。彼はその場でくるりと回って、全ての布を雨垂で串刺しにした。飃は夫婦に一礼し舞台から消える。カジマヤにひじでつつかれたような気がしたけど、覚えてない。



次の舞手は陸奥の吹雪。彼女は、ドライアイスで発生する煙のような白いものを舞台上に敷いて、舞い踊るたびにその煙の中から小判を生み出しては指の間にはさんで扇のように広げた。両手が小判でふさがると、すこし困ったように首をかしげてみせた。そして、腕を大きく回し、着物の袖でふわりと手元を隠した。すると、持っていた小判は一羽の梟に変わって、飛び立っていった。


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