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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第20章-14

「そなたらの絆が、確かなものと聞いて、わらわも嬉しく思う…どうか、そなたらのゆくてに月と日の輪の加護があらんことを・・・。」

この言葉を、その場に居た狗族全員が聴いていた。私には、こんなときに言う返事のレパートリーがないから、本当に小さな声で「有難う御座います…!」と呟くしかなかった。再び顔を上げた簾の向こうにあったのは、心解かすような、優しい笑顔だった。それでいて、千数百年経ても癒えることの無い心の痛みが…彼女の心をいためるのが何にしろ、まだ確かにそこにあるのがわかった。

「神渡(かみわたし)や。」

傍らに居た狛狗族が直ちに答える。

「この簾を、上げておくれ。この子の顔が見たい…。」

狛狗族は一瞬躊躇したけど、直ちに簾を上げた。周りにいる狗族は厳かに頭を垂れた。私があわててそれに習うと、

「よい、さくら…面をあげてわらわによくみせてくりゃれ…。」

私はおずおずと、顔を上げる。伏せていた目を上げると、ほとんど神々しいといっていいほどの彼女の姿があった。

「さくらとは…なんと良き名であろうな、飃…。」

「御意…。」

傍らの飃が、少し俯いたまま答える。

「存じておるか…?桜とは、神の宿る木…桜木の下にて歌を遊ぶ時…そこには守護の帳が降りると…。」

私は、玉の微笑む目元に、懐古の表情を見た。

「―心あらば匂ひを添へよ桜花のちの春をばいつか見るべき…」

そう、囁くような声で詠んだ歌は、私以外の誰にも届かなかったようだった。何も無かったかのように、玉は続けた。

「そなたらには…去(い)んでほしゅうないな…。」

「ささ、お体に触ります…もう今宵はお休みなさいませ…」

狛狗族が優しく忠言し、九尾はうなずいた。

「ではの…また会うことがあるかはわからぬが…飃、さくらをよく守るのだよ…。」



そして、狛狗族は「では、これにて!」とその場にいた狗族に別れを告げ、風を呼んだ。轟と吹く風に、奥方の座す空間ごと乗せて、彼らは再び都に帰っていった。

その後も宴は続き、雷の化身である雷獣と狗族の合いの子、颶の目隠しが酔っ払った狸狗族に外されそうになったり、港町からやってきた狼狗族が「兄弟舟」を熱唱したり…要は、酒盛りだ。でも、こんなに不思議な酒盛りは初めてだった。宴のお囃子に浮かれた、野山の兎やら小鳥やらが集まってきて、狗族たちもそれを向かえて酒を披露した。

明日になれば、この夢のような宴は夢よりも手の届かないところへ消えてしまうだろう。私は、宴会の熱狂から少しはなれたところでこの光景をじっと見ていた。鈴の音よりも幻想的で、太鼓の一打ちより陽気で…笛の調べより儚い。明日になれば、皆それぞれの国へ帰って、とうとう、狗族を殲滅せんと本格的に動き出した澱みとの戦いに明け暮れることになる。去年、夕雷が掴んだ情報に寄れば、澱みの総攻撃が行われるのは今年。


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