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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第19章-22

「…てくれる?」

「茜…」

「あたしを…必要としてくれる?さくら…。」

私より、少しだけ背の高い茜は…小さな子供のように私の腕の中で震えていた。

「…知ってるでしょ?茜…。」

いつしか私も震えていた。

「あんたを必要としなかったときなんか、無いじゃないか…。」

そして、火がついたように二人で泣いた。自分がかわいそうだとか、誰かがかわいそうだとか、何が悲しいとか…そんな理由の無い涙だった。ただ、声を上げて、そうして抱き合っていることにこそ、意味が存在していた。ようやく、涙の勢いが収まって、すすり泣く私たちは、お互いの顔を見た。

「…ひどい顔。」

あえて描写しないけど、確かにひどかった。

「あんただって、鼻水。」

そして、今度は笑った。手がつけられないくらい笑って、それでまた、お互いをみた。

「…ありがとね。」

「…うん。ありがと。」

それは、本当は、心の中に高く積まれていた謝罪の言葉で…でも、ごめん、と言う言葉は、また二人の距離を作ってしまうから、私は有難うと言った。そして、たぶん茜も。

生きていてくれて…また一緒に笑ってくれて、本当に有難う。

病室に戻る途中、巡回中の看護婦さんに見つかってしまった。恐ろしい勢いで叱られて恐縮する私を、ベッドに横たわってみていた茜が変な顔をして笑わせようとしてきた。

そこへ、大荷物を抱えた風炎が現れたので、私は本当に笑ってしまった。

「何が必要なのかいまひとつわからなかった」と、一週間の旅行にも耐えうる荷物を持ってきた風炎に、このぶんならその半分の荷物でも十分です、と看護婦が告げた。

茜は、風炎に見守られながらもう一度眠って、それが目の覚めるあてのある眠りであることに、私はほっと息をついた。

風炎が茜を見る目つきには、なにか見覚えがあるものがあるような気がして…一人でほくそ笑みながら帰途に着いた。



病院から、うちの近くまではバスで帰った。

乗客は私一人。

私は、早くも灯りの消え始めた家々の窓をぼんやりと眺めながら、自分の護りたいものは何なのだろうと、ぼんやりとした問いに、ぼんやりとした答えを探していた。

狗族の未来を護りたいとか、人間の世界を護りたいとか…そういうために戦ってきたのではないと思う。ただ、目の前の命が、目の前の笑顔が、消えるのが辛くて、悔しくて…それで、がむしゃらに戦ってきたんだ。

それでは駄目なのだろうか。

私は、もっと重いものを背負うべきなのだろうか。

―人間として、或いは狗族として…



物思いに沈む私を、停車駅のアナウンスが起こして、私はあわてて立ち上がった。


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