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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第−3話・静夜にて、黒き夜鳥は何想ふ》-4

「……っ…」

刃梛枷はギュッと服の胸部を握り締めた。
会いたいという願いが叶った歓喜とそれでも自分には気付いてくれないという孤独感が入り交じる。
何か言葉を掛けたくなった。
だが、いくら大声を出そうと分厚いガラス窓に阻まれ、疾風に届くはずが無い。

でも、何か伝えたい。何でもいいから話したい。言葉を聞いてほしい。言葉を聞かせてほしい。少しでもいいからあの人を感じたい。少しでも側に…

そう思った刃梛枷は携帯を手に取った。

電話は迷惑だろう。
ならば、メールか。

『頑張って』

そう一言だけ打ち込んだところで刃梛枷の指が止まった。
淡く青光る画面を見つめると、今打ち込んだ文章──とはいっても一言だけだが──を削除する。

多分、これを見るのは仕事が終わってからだろう。
そう考えて、刃梛枷は新たに文章を打ち込む。

『お疲れ様』

またも一言だけ、というか他に何を打ち込めばいいのか判らない。
これ以上どうしようもないから、どうか嫌な印象だけは持たないで…、そう願いながら送信ボタンにゆっくりと手を掛け、押した。

◇◆◇◆◇◆◇

返事は返ってくるだろうか…
嫌な印象は持たれなかっただろうか…
やはり送らない方が良かったのでは…

ベッドに腰掛け、両手に包まれた携帯を眺める。
歓喜や孤独感はいつの間にか不安に変化していた。
そうして部屋の中で一人、刃梛枷が俯いていると手の中で携帯が振るえだした。
送信してから約20分。
背筋を僅かに強ばらせて二つ折りの携帯を開いた。
メールだとばかり思っていたが、画面には『着信中:忍足疾風』と表示されている。
思わず身構えてしまった。相変わらず携帯は振るえている。
刃梛枷はゆっくりと呼吸をして着信ボタンを押した。

「……もしもし…」
『あ、刃梛枷?』

暖かな声が聞こえた。

『さっきはメールありがとう』
「……どういたしまして………でも、メールで返してくれても…」
『実はまだ帰宅途中なんだよね。だからメールよりは電話の方が…あ、ごめん、迷惑だった?』

疾風の声音が若干曇る。

「……ううん………そんなことない…」

刃梛枷は緩やかに首を振った。

「………私も電話の方が良かった……」
『そう?』
「……だから大丈夫………そういえば………仕事は…?……邪魔じゃなかった…?」
『こっちも大丈夫だよ。簡単な依頼だったから、もう済んだ』
「……そう…」

───お疲れ様。

刃梛枷はもう一度、同じ言葉を掛けた。

『ありがと♪』

疾風はそう返した。
たった二言のやりとりが刃梛枷には堪らなく嬉しかった。

それから30分くらいの間、授業や武慶たちといった話をしているといつの間にか時刻は11時を回っていた。


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