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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第18章-14

「…あれは…」

目を細める。

蛍のように、柔らかく点滅を繰り返す赤い光…それが、今



瞬きした。



「イナサさん!あれ!!」

指をさした方角から、殺気の波が襲ってくる。そいつはビルの屋上で翼を広げ、こちらに滑空してきた。

「…!」

大きい。一軒家なんか軽く飲み込んでしまうほど。澱みは口を開けたまま、まるでプランクトンだか小エビだかを海水ごと飲み込む巨大なエイのように向かってくる。

「さくら殿!」

「え?」

私は、何が起きたか理解する暇もなく、山を覆う森に放り込まれた。

「イナサさ…!」

世界は一瞬動きを止め、イナサさんの目は、まっすぐに私を見ていた。彼女の目の中にある、決意の光が私に見えるほどまっすぐ。

そして一度の瞬きの後、イナサさんと巨大なエイは、何万人もがいる都会の上空で、誰一人として省みることのない戦いに突入した。





芽吹きだした青葉は、私をしっかり受け止めてくれた。私は、山の10メートルほど上から降りたにもかかわらずかすり傷しか負わなかった。ふと足を見ると、イナサさんが処置してくれたのだろう、傷には包帯が巻かれ、回復の呪歌のおかげで力が漲っていた。

「待ってて…!」

そして、私は頂上に向かって走り出した。





+++++++++++



化学薬品と血…そして、何人もの人間をこの建物に閉じ込めた病の臭いが、ここにはいまだ濃く残っていた。

嫌な臭いだ…もっとも、今自分の目の前にあるこの扉の向こうから漂ってくる匂いに比べたらたいした事は無い。

彼の腕は、彼の両側にたった二体の澱みに掴まれていた。彼ならば、これしきの澱みなら北斗や七星の力を借りなくても簡単に消し去ることが出来たけれど、大人しくしていた。病院の一番上の部屋に案内された飃の心中は凪いでいた。いきなり拉致された前回とは違って、今回は覚悟を決める時間があったから。

だから、「入りたまえ」という獄の尊大な声を聞いたときにも、彼は表情一つ変えなかった。この部屋にも、悪趣味な調度品が並べられていて、窓は無かった。毛足の長い絨毯が足の裏をくすぐる。生暖かい空気に、むせ返るほどの匂いが混ざって、まるで油の中を進んでいるかのように足取りが重くなった。


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