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結界対者
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結界対者・終章-14

「さてと、どこから入ってやろうかしら……」

 見上げながら呟くサオリさんを横に、俺は周囲の様子を端から目で追う。そして

「サオリさん、考える必要は無いみたいですよ」

それまで閉じられていた正面の扉が、知らぬうちに開け放たれていた事に気付いて声を上げた。

「なるほど、大歓迎って訳ね」

 呼びつけたのは奴らなのだから、当然といえば当然の事なのだ。だが、あまりにも余裕なその態度に、心の底から沸き上がる猛烈な敵意を押さえきれない。

「思い知らせてやりますよ、こちらが招かざる客だって事をね」

 互いに靴先を扉へ向け静かに近付く。と、その時、サオリさんがピタリと動きを止め、突然こちらに振り向いた。

「ねえ、イクト君」
「えっ?」
「もし、助けに行く途中で、セリが力に目覚めてしまったら……」
「え……」
「いいえ、目覚めてしまったと私が感じたら、私は私の全てを使って最大の力で時間を戻す」
「……?」
「どこまで戻せるか判らないけど、その時は…… イクト君、お願い、セリを守ってあげて」

 私の全てで、時間を戻す? 私の力の全て、じゃないのか……
 しかも俺に「お願い」って……

 そこまで考えて、俺は閃いた様に、さっき菅澤の屋敷で、別れ際にサオリさんがアヤネと話していた事を思い出した。
 

……――『サオリよ、セリに何かしらの異変が、もしくはあの力に目覚めよう時は……』
『ええ、大丈夫。私が絶対に、ね?』――……

 あの時、サオリさんは微笑みながら、いつになく強い眼差しで、まるで覚悟を決めた様に告げていた。

「まさか、サオリさん! そんな……」

 呼び掛けながら俺は、不意にガーゴイルを倒した時の樋山を、消えてしまった樋山を思い出す。
 対者が己の力を全力で解放するとどうなるか…… あの時、俺は嫌という程に思い知らされたのだ。

「もしもの場合よ! ほら、そんな顔しないで。行こう、イクト君!」 

 振り切る様に歩き出すサオリさんの背中を、慌てて追いかける様に歩き出す。そしてそのまま、俺達は楽箱の中へと向かって行った。



 楽箱は、入り口を入ると直ぐ、その空間の全てがゲームセンターになっていて、以前は数十台のアーケードゲームが所狭しと並べられていた。
 だが、今は全てが取り払われ、何かのホールの様な状態になっている。

「誰も、いない?」
「みたいですね……」

 外は廃墟の様だったにも関わらず、建物の中は以外にも綺麗で、寧ろ以前に訪れた時よりも明るい感じがする。
 しかし、以前の様な、無粋な男達による取り囲みの歓迎はなく、無機質な静けさが建物の中全体を充たしていた。


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