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独身最後の夜
【女性向け 官能小説】

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独身最後の夜-1

「心残りといえば、お前を抱いていないことぐらいかな。」
柿崎は真顔でそう答え、明日菜の手を取った。
明日菜は呆気にとられるしかなかった。


 11月ともなれば、東京でも朝晩はかなり冷え込む。暖房の効きすぎた電車やビルと、外気との差もまた体感温度を下げる原因かもしれない。なんとなく人恋しい季節なのは、そんな温度のせいかもしれない。

 北田明日菜は27歳、都内の上場企業に勤務し、9つ上の柿崎勝とペアを組み営業すること3年。明日菜と柿崎は、社内では有名なペアだ。なぜ有名かは、もちろんペアの営業成績が良いこともあるが、柿崎本人の資質によるところも多い。柿崎は、男も認めるほどのイケメンで、当然女子からの人気も高い。さら に都内の高級住宅地に実家があり、本人もその近くに住み、外車を持ち、性格は基本優しく、仕事には一生懸命というモテる男の条件をいくつも兼ねそろえた男であった。実際、相当モテている噂はあり、お持ち帰り率が異様に高いとか、社内に何人も彼女がいるとか、浮いた噂は絶えなかった。明日菜も入社当初からカッコいい先 輩の一人として見ていたが、本当に見ているだけだった。地方の田舎町出身で、見た目も人並みな自分とは、あまりに住む世界が違う人という感じが強く、恋愛感情とは程遠いところにその存在があったからだ。
 そんな明日菜と柿崎は、3年前からペアを組んで仕事するようになった。会社の都合でのめぐり合わせだが、柿崎が女性社員とペアを組むのは初めてのことであり、当初まわりの女子社員からは、かなりうらやましがられた明日菜であったが、仕事には厳しい柿崎とのペアは、まわりからうらやましがられるような ものとは程遠く、恋愛感情どころか闘争心を燃やさなければついていけないほど、一生懸命に働くことに終始していた。それでも、ふとした瞬間に柿崎を見ると、あまりのかっこよさに、改めて『かっこいいなぁ』と見つめてしまうようなことは多々あった。厳しいオーダーも、脂ぎったオヤジに言われるのではなく、柿崎に言われ るからこそ耐えてきた部分もある。
 そうしてがんばる明日菜は、周囲から見るとまるで女房役のように柿崎の世話を焼いているらしい。柿崎が「あれ。」「それ。」と指示するだけで、その要望に答え、スケジュールの管理からフォローまで、『柿崎は明日菜がいないと仕事ができない。』とまで言われている。そのあたりも有名ペアに挙げられる所 以であり、当の本人達もそこまで思っていないものの、営業成績も良く中々のペアだという自覚は持っていた。

 こうしてペアを組んで3年目の11月。柿崎は結婚式を控えていた。妻となる彼女は、明日菜よりも若く、相当かわいいと噂のお嬢様だ。ちょうど、明日菜と柿崎がペアを組んだ半年後くらいからつき合いだしたため、彼女の話は散々聞かされてきた。だいたい愚痴から始まるのだが、結局はノロケ話にしか聞こえ ず、いくらつき合いの良い明日菜でも邪険にしたくなる時もある程、ラブラブな様子は伝わってきた。だから結婚する話を聞いた時は、単純に嬉しく思ったものだった。
 
 ちょうど式まで1週間前の金曜日だった。明日菜と柿崎は夕方からの打ち合わせを渋谷で終え、直帰になった。半同棲中の柿崎の彼女が今週末は実家に帰ってしまったというため、ご飯でも食べて帰ろうということで、柿崎の好物の鍋料理を、結婚祝いと称して明日菜がご馳走していた。会話の話題はいつものこと で、仕事の話から、最近はもっぱら柿崎の結婚話に。いつものように、彼女の愚痴から、結局は仲いいじゃないですか、という話をしてばかりだった。
 
あまり酒を飲まない二人は、早々にご飯を食べ終え、21時前には店を出た。
「うわっ。結構寒いな。」
店を先に出た、柿崎がハアーッと手に息をかけながら振り返る。
「本当ですね〜。」
明日菜も両手で自分を暖めるようにしながら答える。
駅からは少し離れたところにいたが、二人は渋谷駅まで歩いて帰ることにした。会話の話題はまだまだ柿崎の結婚話だった。


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