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甘辛ニーズ
【コメディ その他小説】

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甘辛シロップ-8

「…とは言ってないのに。 なあ将太?」
 透が顔を覗き込んでくる。 相も変わらず爽やかな顔つきだ。
 適当に相槌を打っておこう。
「え? うん…」

 ─と、急にこんなところで大事なことを思い出してしまった。
「…ああっ!」
「んなっ!? い、いきなりどうした!?」


 …宮藤 聖奈さん。 僕が雪柳宅を訪れる度に渋味のある紅茶と、
 手作りのバター・バニラクッキーを差し出しては、優しく持て成してくれる
 雪柳家にとって欠かせない存在の家政婦さん。

 …本名は、宮藤・セイナ・アレッシア…さん。 当然だけど同一人物だ。
 日本人の父とイタリア人の母から生まれた混血の人…つまり、ハーフ
 …にも関わらず、なぜ日本の和服美人を象徴する大和撫子の様な
 美しい黒髪・黒眼であるかは聞かされていない。


 そうだ、僕はこの人の存在を忘れていたんだ。

 もしも、凪がそこに着いた途端にベルを鳴らして、家事をしていた聖奈さんが
 応答したとする。
 …するとどうなるのだろうか。 僕と透が家にいないことを知り、
 待ち続けるか、直感で僕達を捜すか……どっちかしかない!

 というか根本的な問題だ、聖奈さんがいてもいなくても選択は変わらないんじゃないのか?

 ……己の馬鹿さを悔やもう。
「…おーい、考え事してるところを邪魔しちゃって悪いんだが、もう着いたぞ」

 ………地獄はこの先で待ってるんだよ、きっと。
「ん? うお、なんだこりゃ! ドアがボロボロに…」
 …凪はいないと祈って。






 聖奈さんの温かい手が、私の微妙に冷たい手を包み
「恋に障害は付き物、止まらずひたすらアタックです!
かつてのセキトリマンの恋人…『ヲトメ』のようにっ!!」
 と、言い放ってきました。 ちゃんちゃん。
「………………」

 ………………………。

「…………」
「…………」

 記憶にないのですが…私、聖奈さんに何か言いましたかね?
 急にセキトリマンだの何だのと言われましても…どうリアクションを
 とれば良いのか、困ってしまいます。

 そういえばセキトリマンって、ショウちゃんの好きなヒーローNo.1に位置する
 キャラクター、でしたっけ? 私には理解しかねますが。
 ちょっと意外です、聖奈さんも知っていたとは。

 …そうじゃなくて。

「『当たり続けて砕けさせろ』ってことですか。 そのような生き方は私も憧れます。 …いえ、あの、その、ええと…」
「………」
 ちらりと聖奈さんの顔を見る。 …何故かお顔が真っ赤っか。

 …流れがおかしい…。


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