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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第17章-9

飃が心配していたのは、さくらのその優しさそのものだった。

彼女は他人の不幸を背負って、何とか軽くしてやろうと微笑む…たとえ、その不幸の重みに足から血を流していようと。飃にはそれが辛かった。しかし、それは飃にはどうにも出来ないことでもある。他人の不幸に涙を流すことが出来るのは人間だけだから。狗族には、他人の不幸に涙を流す感情は無い。ただ、身内を攻撃したものへの敵意と、復讐心が宿るだけ。

だから、その復讐心さえ半分背負って軽くしてやろうとするさくらに、これ以上の苦しみを背負わせたくなかった。

これ以上の苦しみに、さくらの心が折れてしまう時が訪れたら…

飃には確信があった。そして、その確信を恐れに変えるような情報がまさに今日、もたらされたのだ。



「許せ…。」

気難しい短針の、歩き回る足音のようなリズムだけが響き渡る部屋の中に、ぽつりと、誰にも届かぬ呟きを残して飃は立ち上がった。今から彼が向かうところにだけは、さくらを連れて行くことは出来ない。



そこはさくらのような人間にとってはあまりに…

…あまりに悲惨すぎる。



*************



そこは東京湾沿岸には無数に存在する港のうちのひとつだった。墨のように真っ黒な海は、遠くのネオンを映して揺れている…実にありきたりな場所だ。ひと気も無く、違法な物品の取引場所としていかにも好まれそうなところだ。

そして、そんな数多くの『ありきたり』から実際に使われた場所を見つけ出すのが『探屋』の仕事だった。



拘置所で、見ず知らずの男との面会を求められた南なる男は困惑していた。保釈金を払ってくれたわけでもない、ボスの使いでもないその男は、警戒心から口を閉ざす覚悟の南に質問もせず、2、3度鼻をひくつかせて立ち上がった。

お前、一体何の用だと喚く声には耳をかさず、男は立ち去った。眼鏡の奥から身もすくむような冷たい視線を投げかけて。



「ここか…。」

探屋は呟いた。人間には数日前の出来事でも、まるで今起こっているのを見ているかのように、彼には何が起きたかはっきり見えた。正確には、匂いをかいだ。

重要なのは、依頼主の覚せい剤の向かった先。だが、あのやくざにとっては不幸なことに、その覚せい剤の向かった先は目の前にあった。きっと全てを飲み込んでもまだ何にも飲み込んでなど居ないかのように、変わらず揺らめく…覚せい剤は、すべて海に投げ込まれ、捨てられていた。そして、その全てを行ったものの匂いには、いやというほど覚えがあった。


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