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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第17章-13

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誰かに付けねらわれている。飃ではない。カジマヤはこんな真似しないし、したとしてもこんなに巧くないはずだ。私は歩調を速めて、ひと気の無いところに向かう。相手の気配を際立たせるために。人ごみにまぎれてしまえば相手にとっては襲いにくくなるだろうけど、別に「襲わないでください」という気も無かった。上等よ、来るなら来れば良い。

破れかぶれと言われれば反論は出来ない。でも、自分の強さを証明したい。飃に守られっぱなしの私じゃないってこと、ちゃんと自分で知っておきたい。

でも…



全然襲ってこない。申し訳程度に街灯が一本だけ光ってる暗い公園の、汚れたベンチにどかっと腰を下ろす。

1分…2分…そろそろイライラしてきた。襲うなら早く襲えばいいのに!…3分が経過した頃になって、私は立ち上がった。手の中には、小さくしてある九重を持って。

私の覚悟を感じたのか、背後の木から何かが下りた。音から察するに、大人の重量感は無い。正体を考える前に、私の手の中の九重はもとの大きさに戻って、ヒュ、と空を裂いた。振り向きざまに衝いた私の一撃を交わしたその影は、意外なことに聞き覚えのある声を上げた。

「わぁっ!」

「…あなた…?」

彼は宙返りして九重をよけ、その手から伸びる長い鎖を木に巻きつけてそれにぶら下がった。

「あ…あの…お久しぶり…です。」

彼は、そう言って気まずそうに笑った。



30分後、私たちはファミレスで向かい合って座っていた。

彼は、かつて澱みの「飼い犬」として育てられた狗族だ。私たちと戦ったときには「七番」と呼ばれていた。

「どうしてあなたがここに…」

白い色が強い彼の銀髪や、茶色が勝った鈍い金の瞳、右目の下の「7」の刺青には×印の、まだ新しい傷跡があった。間違っているはずは無いけど、思わず見違えるほど小奇麗になった彼の姿…だけど、変わったのは見た目だけではないようだった。飃の村で一体何が起こったのか、彼は全て話してくれた。村での生活、村のみんなの優しさに触れたこと、そして…澱みの襲来を受け、村を後にしたこと。

「夕雷に、新しい名前をもらいました…神立と…」

そう言って、彼は少し照れたように俯いて、私をちらっと見た。

「神立…すごい!凄くいい名前…!」

私は「お祝い」ということで、彼にパフェをおごった。運ばれてきたそれに目を見張る彼が可笑しくて、私は声を上げて笑ってしまった。それにつられて、神立も笑った。控えめではあったけど、遠慮も気遣いもない、本物の笑顔で。


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