飃の啼く…第１６章-10
「ねえ？」
いつものように夜が空の淵から忍び寄り、いつものように金星が、間違えて一つだけ空にともった電飾のように光っていた。そして、いつものように、私達は二人で家に帰る途中だった。
「結婚相手って…どうやって決めたの？飆は写真とか言って…」
いや、聞きたかったのはそんなことじゃない。言葉を切って、言い直す。
「どうして私を選んだの？」
家の前まで来た時、私はそう言った。飃は、聞こえなかったかのように聞き流して、ドアの鍵を開けた。私に先に入る様に促すと、後から隙間ほどしかドアを開けずに滑り込んで、すぐに戸を閉め、鍵をかけた。
「ねぇ、つむ…」
私の声は、そこで途切れた。目をぱちくりさせる私を、彼は強く抱いて、頭に手をあて自分のほうに押しつけて、わずかな隙間も埋めた。
「飃…」
「何も言うな。」
飃が息をついて、へこんだ腹に、私はもっと深く抱き締められた。
「何も言わずに…己の選択が間違いではなかった事を確かめさせてくれ…。」
私は飃の背中に腕を回した。私の選択もまた、正しかったと確かめる為に。そして、その夜はあまり言葉を交わさずに、不安定な睡眠をとった。
―なぜ……
「え？」
私が立っていたのは、草むらだった。近くに水があるわけでもないのに、蛍が飛んでいるのは妙だと思った。あたりには枯れ木が一本たっているだけで、何も無い。私は、声のしたほうへと、歩いてゆく。
「あの木…」
近づくにつれ、くねくねと枯れ木が形を変える。私があと数歩でその木の所までいけるという時に、夢は終わった。
「おはよ…。」
「おはよう。」
なんだか、茜の様子が違った。昨日一緒に帰る約束をすっぽかしたのを怒っているのかと思って素直に謝ったけど、
「何で謝るの？気にしてなんか無い。」
と、言われた。言葉こそ優しいけど、その言い方はやっぱり少し、怒っているように思えた。
「茜…？」
「早く行こう。今日はサボるなんて言い出さないで。私だってそうそう休んでられないんだから。」
「あ…うん、ごめん…。」
やっぱり、怒っているんだろうか。朝のほかの生徒が、何の憂いも無く登校しているのが…何故か不自然に感じられた。あんな事件があったのに。いや、まだ報道はされていないけど、ちゃんと警察には通報したから多分公表されていないだけなんだろう…それはそうだ…あんな……
首を振る。あの遺体のことを、気を抜くと思い出しそうになる。