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つかの間の愛情
【その他 恋愛小説】

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旅立ちの日-15

ー夜9時ー

眠りから覚めた一巳。母は出掛けたのか、誰も戻らない。
仕方なく買置きのカップ麺と、ご飯という炭水化物同士の夕食を摂る。
食事をしながらテレビをつけるが、たいした番組もないのかすぐに消した。

そうしているうちに10時を少し廻った。

「そろそろ行くか」

里香のマンションまでは30分も有れば到着するのに、一巳は手早く着替えると、バイクを飛ばした。



ー夜8時ー

「う…ん……」

何度も寝返りを打つ里香。だが、思いに反して眠れない。
昼寝のためか、気持ちの昂ぶりか。多分、後者だろう。

そうしているうちに時刻は9時を過ぎる。里香は諦めてシャワーを浴びようと、起き上がった。

昼間の影響で肌がヒリヒリする。ふと気づくと、里香は念入りに身体を洗っていた。

(私、なんて……)

シャワーの後、美那に教わった化粧をしようとドレッサーに座る。しかし、顔を紅潮させて、

(これじゃ私、期待してるみたいじゃない)

自己嫌悪に陥る里香。



一巳が里香の自宅に着いたのは、10時40分だった。

(ちょっと早かったな)




里香の両親は、奥の部屋で寝息をたてている。
彼女は〈勉強するから〉と、窓から外を眺めていた。時折聞こえるバイクの音に鼓動を高鳴らせて。



11時になった。一巳は軽くホーン・ボタンを押す。〈パァーン〉と大きくカン高い音が辺りに響く。
里香のマンションを見つめる一巳。だが、何も変化はない。5分…10分…誰もこちらへ来ない。
仕方なくもう1度ホーンを鳴らそうとした時、足音と共にシルエットが一巳へと向かってくる。

外灯に照らされた姿は里香だった。

「……」

里香は黙って一巳の前に立つ。いつもの俯く彼女と違う。真っ直ぐに彼を見つめていた。

「さ、行こうか」

一巳に差し出されたヘルメットを、里香は受け取り、被るとバックシートに跨った。

一巳は静かにバイクを走らせた。



バイクが止まった。

「ここって……」

「ここは、オレがよく来る場所だ」

小高い山の山頂へ通ずるワインディングロードを駆け上がると、眼下には夜空を敷きつめたように、煌々と灯りが続いている。

それを見つめる里香。いつの間にか、目には涙が溢れ小刻みに震えている。


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