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是奈でゲンキッ!
【コメディ その他小説】

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特別興行 がんばれ田原くん! 『是奈と愉快な中間たち 2』 後編-4

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 嘉幸は、ほぼ全力で病院へ向かって走った。……走ったのだが、やはり都子を背負っての長距離走とあっては、体力にも限界があるだろう。とうとう、藤見晴市グリーンサンクチュワリ公園前の道路脇の歩道でもって、力尽きて折れてしまった。
「いやーん田原く〜ん! しっかりしてぇ!!」
 都子は倒れた嘉幸に馬乗りになったまま、激を飛ばしてはいるが。
 嘉幸は「もーう…… だめだ〜」と動けないで居た。
「こーらー! 待ちなさーい!!」
 とそこえ、ゼナが忍者のように上半身まったく動かさず、脚だけでササササーっと走り寄って来たりもする。
 ゼナはそのまま勢い良く都子に飛び掛ると、二人して嘉幸の背中の上でもって、掴み合って大騒ぎを始めた。
「ああーばかばか! 止めろ! 死んじゃう! 今度こそほんとに死んじゃうってば! 中身が出ちゃうってばあー!」
 嘉幸も、都子と是奈に、二人して馬乗りにされ下敷きになって大暴れされては、たまった物じゃない。今度こそ本当に死ぬかも知れないと、本気で思ったりする。
 すると。
「よう田原! 田原じゃねーか! 何やってんだお前!」
 と、またまた聞き覚えの有る声に、死にそうな顔つきのまま、嘉幸は声のする方を見やった。
 都子と是奈、彼女達も殴り合っていた手を止めて、声のした方を見上げていた。
「お前さぁ、姉さんだけじゃなくて、外でも女の尻に敷かれているようだな。ハハハハッ!」
「げっ斉藤っ!」
 嘉幸は、がまガエルを絞って出したような声を出し。
「斉藤君じゃない!」
「こんなところで何をしているの」
 都子と是奈も、見知った声の主に気さくに声を掛けるのだった。
 どうやら声を掛けてきたのは嘉幸の親友『斉藤 章吾(さいとう しょうご)』だった様である。
 章吾は何やら、捻り鉢巻にハッピ姿をして、素人が即興で作った様な、けったいな屋台の中に納り、笑いながら嘉幸達のことを見ていた。
 そんな章吾の姿に、今度は嘉幸が、やっと出した声でもって尋ねもする。
「斉藤、お前こそこんな所で何やってるんだ」
 すると章吾。
「俺か、見りゃ解るだろぅ。バイトだよ、バイト」
 そう言いながら章吾は『たこやき屋』と書かれた屋台の中におさまって、なれた手つきでもって器用にも、たこ焼きを焼いていたのだった。
「へーバイトしてるんだぁ。そう言えば斉藤君って料理とか得意だって言ってたよね。なんかたこ玉をひっくり返すの上手いしぃ」
 章吾のたこ焼きを焼く手つきの鋭さを見て、是奈もなにげにそんな事を言う。
「おっ、なかなか鋭いね! さすがは朝霞さん!!」
 熟練した技に感動すらした、そんな表情を浮かべながら、なにやら感心ありげに見詰める是奈の視線が章吾をうならせるのか、言われた彼もまた上機嫌で、たこ焼きに使うピック(千枚どうしみたいな、先のとんがったやつ)を振りながら、得意そうに鼻の下を指で擦ったりもする。
 だが続けて都子に。
「でもこんな所で屋台なんか出して、良いのぅ?」
 不審げにそう言われると。
「なんだお前ら、知らないのか? 今日はマラソン大会だぞ」
 そんな事を章吾は漏らして言った。
「マラソン大会?」
 はて何のことやらと、都子は小首をかしげた様子だったが。
(ああそうかぁ。今日は年に一度開かれる、藤見晴市のスポーツイベントの日だっけ)
 と、嘉幸はそんな事を思い出し。
(どうりで街中を大騒ぎして走り回っていても、誰も騒ぎ立てしなかったはずだ。どうせ浮かれてバカ騒ぎしている奴ら、ぐらいにしか見られてなかったんだろうな、俺達)
 さらにはそんな事も思い、嘉幸は歩道のアスファルトに横顔をくっ付けたまま、交通規制されて車が通らなくなった車道を、たくさんのマラソンランナー達が走っていく姿を見詰めもする。
 見れば周りの見物客や応援している人たちも、皆が手に手に『がんばれ日本、藤見晴市健康マラソン大会』などと書かれたうちわや小旗を握り、それを振って、
『がんばれー!』
『行け行けー!』
『きゃー土佐さーん! こっち見てー!』
 と、一生懸命に声援を送っている。
(なんだ、けっこう盛り上がってるじゃないか。……もしかして今日は、絶好のチャンスだったのかもしれないな)
 などと嘉幸は、恨めしそうに口元をニヤつかせもしていた。


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